「どうしたんだ」
保険室の梅田先生が貴子に聞いた。
「平均台から落ちて足をちょっとひねったみたいで・・・」
保険室の椅子に座り、くじいた足の側のジャージをめくりながら貴子は症状を説明した。
「これは痛い?」
貴子の足首を押しながら梅田は症状を確認した。
「軽い捻挫かな。今湿布をするから、もう今日はこのまま家に帰りなさい」
梅田はそう言うと湿布を出してきて処置を始めた。
「あなたは同級生? 悪いけど、更衣室に行ってこの子の着替えを持ってきてくれない」
梅田は貴子の足に湿布を貼りながら由香里に言った。
「はい、わかりました」
由香里はそう言って保険室を出ていった。
「それじゃ俺はこれで戻りますんで」
手持ち無沙汰で何もすることの無かった学はそう言って保険室からでようとしたが
「学、ちょっと待て。お前はこの子を家まで送っていきなさい」
梅田は、部屋を出て行こうとした学に向かって大きな声で引き止めた。
「なんで俺が家まで送っていかなきゃならないんだよ」
驚いた学は慌てて梅田に問い返した。
「お前は部長だろ。だから責任を持ってこの子を家まで送る義務があるんだよ」
「えぇ?」学はその言葉にびっくりして返す言葉がみつからなかった。
「ほら、口答えしないで。さっきの子が着替えを持ってくるからお前は下駄箱のところで待ってなさい」
梅田はそう言ってアゴで学に指示をした。
学は言い返せないまま、渋々と保険室から出ていった。
この一連のやり取りを見ていた貴子は、もう自分とは関係ないところで話が進んで行くことにどう対処していいか分からず、ただ戸惑っているしかなかった。
保険室から由香里の肩につかまって出てきた貴子は
「由香里、ごめんね。でもウチどうしよう。学先輩に家まで送ってもらうことになっちゃた。すごい迷惑だよね。学先輩怒ってるよね」
もうどうしていいのか分からない貴子は泣きそうな声で由香里に言った。
「なんでよ、これは凄いチャンスじゃない。こんなこと普通ありえないよ。あんたは怪我人なんだから、仕方ないんだもの。だからこのチャンスを有効に使わなくちゃ」
貴子は、笑顔で励ましてくれる由香里がとても頼もしく見えた。
「ねぇ、悪いんだけど由香里も一緒に来てくれない?」
学と二人になるのが心細い貴子は請いるように由香里に聞いてみた。
「ダメ。このチャンスにウチが一緒に行ったらぶち壊しになっちゃうから絶対だめ。心配しなくても大丈夫だよ」
そう言っているうちに下駄箱へと着いてしまった。
「それでは木村部長、貴子をよろしくお願いいたします」
由香里はそう言って学に向かって深ぶかと頭を下げると、貴子に「頑張って」と小さく言ってそのまま体育館の方へと歩き出して行ってしまった。
《つづく》