「そりゃあ綺麗だよ。長崎の夜景を裏側から見られる宿なんだ。」
市内観光で乗った人力車のお兄さんがそう教えてくれたのは、聞いたことがない山の上にあるというホテル。
日本三大夜景のひとつにも数えられる長崎の夜景と言えば、稲佐山が有名ですし、
旅の下調べなどしていなかった私にとって、その名は初めて聞くものでした。
それは、私が人生でたった1度だけ経験した一人旅でのできごと。
傷心旅行で訪れた長崎では、市内の一流ホテルに2連泊する予定でした。
ところが、最初の1日を過ごしてみると、防音のしっかり効いた綺麗な部屋にひとりでいても、
なんだか寂しくなってくるばかり。
窓の外を眺めてみても、目に入るのは雑然とした街の風景だけ。
心の傷を癒すつもりが、反芻して涙ぐむ始末なので、翌朝チェックアウトしてしまいました。
さあ困ったな、と思いながら市内をぶらぶらと歩き、たまたま乗った人力車のお兄さんに、
「実は今夜の宿が決まっていないの」と話をすると、冒頭の宿を教えてくれました。
風頭山という山の頂に立つというホテルは、古いけれど部屋は広く、
何より部屋の大きな窓から見下ろせる長崎の夜景が最高なのだというのです。
「稲佐山じゃなくて?」としつこく尋ねる私に、
「稲佐山から見る夜景も綺麗だけれど、通はこっちを選ぶんだよ。」と、
人力車のお兄さんは笑いながら言いました。
その後、宿に空部屋の確認まで入れてくれて、
私はその日の宿泊先を確保することができました。
山の上に立つそのホテルは、昨日の一流ホテルとは違って、
建物自体はすでに古く、部屋のつくりも昔っぽかったけれど、
食事は、大勢が集まる食堂でとり、ロビーではゲーム大会なんかもやっていて、
昨日のように寂しくなる間がありませんでした。
ようやく部屋に戻ってひとりきりになったのは、窓の外がすっかり暗くなってから。
入口のドアをパタンと閉めて、どさっとベッドに腰かけたとき、目の前に広がっていたのは、
それまで見たことも無いくらい綺麗な夜景。
「わあっ!」
と思わず立ち上がり、窓の側に駆け寄って、キラキラと眩いその夜景を
飽きることなく眺めました。
そのうちちょっと涙が出てきて、でも、その涙は、辛かったことを思い出した涙じゃなくて、
あまりに綺麗な夜景に感動して出てきた涙で、
これでもう、明日からは後ろばっかり振り返らないで元気にがんばっていけるかもしれないと
気持ちが前向きになっていくのを感じました。
痛手を負った心を回復させてくれた風頭山の素晴らしい夜景は、今も変わらず煌めいているでしょうか。
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