八王子で起きた夫婦殺人事件の犯人は現在逃走中、全国に指名手配されている。
その時を同じくして、港町・離島そして都市部のそれぞれに素性の知れぬ男が現れる。果たしてこの三人のうち一体誰が犯人なのか…!

この「怒り」という小説は、"殺人事件と逃亡犯"という一本の柱を軸に展開されていくが、決して推理小説でもサスペンスでもない。
自分の身近に"よく分からない者"が現れ、次第にその存在が"日常化"されていく。その環境を通して描かれる、"信じる"とは何なのか…"愛する"とは何なのか…という、人間の真理に迫るヒューマンドラマだ。
作中に描かれる社会描写は実に正確で詳細までイメージがしやすい。人物それぞれの心理描写も素晴らしく、感情移入に難儀ない。
十数ページ毎に現れる、時に辛辣で時に優しいたった2~3行の一文にやられる。
僕は読みながら、幾度か泣かされた。
登場人物の気持ちに素直にリンクして泣いた。そして亡き母を想って。また、過ぎ去った人を、これから訪れるであろう時を思って、泣いた。
いま、自分の愛を確かめたくなる。
私に向けられる愛ではなく、私が生む愛をである。
さて、映画の公開は間もなく。

この小説の魅力である繊細な表現力がどこまで活かされているかは分からないが、そもそも"映画版"とは、"小説とは別の物"だと考える。
一本の映画作品として観客をどこまで道連れにしてくれるかが非常に楽しみだ。