西風 | Poisson d'avril ~毎日が四月バカ~

Poisson d'avril ~毎日が四月バカ~

Some people feel the rain. Others just get wet.

先日、少しだけ長い時間を列車に揺られ、友に会いに行きました。

大切な人を亡くし、別れを告がんとする友と会ってきました。





一ヶ月前、この木は「サクラ」と呼ばれていました。


電車の車窓から。川沿いの並木で。公園のベンチを取り囲んで。人々から今か今かと心待ちにされながら開いた今年のサクラ。

しかし今、青葉に陽光を浴びて強く輝くこの木を、もう誰も「サクラ」とは呼ばなくなりました。



たった、一ヶ月前です。

足を止めて見上げたはずなのに、時間を忘れて見つめたはずなのに、これがあんなにも恋い焦がれた木だったことを、誰が信じることができるでしょう。



思い返してみれば。

固く握った蕾から薄赤色の花びらへ、サクラはちゃんと咲いていました。派手ではなかったけれど、確かにそこに咲いていました。

嬉しいものです。

なんだかあちらもこっちを見ていてくれる気がして。

しかし人はそれをすっかり忘れ、いや、もしかしたら忘れられずに、サクラにこう言うのでしょう。

「一年中散らずに、ずっと私だけのために咲いていて」


そうして、戸惑うサクラの皮をメリメリと剥ぎ、根本からぶった切るのです。

「また咲く気になったら言ってくれ」と。



今日の風は、とても強い。

けれど「サクラ」は朗々と靡き、人は歩けない。



友は最期にこう言いました。

「愛させてくれてありがとな」と。


もう、彼には頭が上がりません。