「HK/変態仮面」感想【ネタバレ若干】 | カキオキ

「HK/変態仮面」感想【ネタバレ若干】

HK/変態仮面」感想。
役者の肉体と演技で映像化された「けっこう仮面」男版。
100点満点で80点です。



原作は全く未読の状態で鑑賞しましたが「それは私のおいなりさんだ」等の定番ネットスラングの元ネタがこの「変態仮面」なのか感動しました。
鑑賞後にwikiった所、あの週間少年ジャンプでの連載で、しかも連載していたのは20年前だと知りビックリ。

和洋関わらず、やれバットマンだ、やれアイアンマンだ、やれスパイダーマンだ、やれガッチャマンだと様々なヒーロー達が、ハイエンドCGや最新のアクタースーツを駆使してリアルに映像化されている昨今ですが、それに対し、たいしたCG処理もせず、特注と思われるスーツは覆面と肩にかけたブーメランパンツのみで、後はドンキで売っていそうな網タイツとスニーカーを奢り、仕上げにパンティを被ると言う、殆ど裸同然のチープないでたちの「変態仮面」の再限度の高さは大変素晴らしかったです。
和洋のライバルヒーローを遥かに上回る原作再現度にも関わらず、これを現実化するとここまで物凄い物になるのかと絶大なインパクトを受けました。
ライバル達になんらひけを取らないどころか、ことインパクトに関して言うなら、上か下かは判りませんが、明らかに同じステージには存在していない圧倒的な存在感さえあります。
これは、「変態仮面」を再現する為に絶対的に必要な要素である、完全な肉体美を、主演の鈴木亮平が完璧に再現した事と、そしてそれを最大限にアピールする為の肉体の演技演出が完璧だったからだと思います。
一目見て「ああ、こいつは変態だ、ヤバイ」と判る数々の奇跡的なポージングを、観客の動揺を完全に支配する様に完璧なタイミングでつないで行く変態仮面のアクション演出は本当に素晴らしく、「良い意味で嫌な物を観た」と言うホラー映画的な恐怖と紙一重の爆笑をもたらしてくれました。
恐らくは、原作のファンであり本作の脚本協力を担当した小栗旬がかなり良い仕事をしたのでは無いかと想像。
CGやスーツに頼った作り物ではなく、実際の役者が肉体を駆使して映像化したからこそ、「変態仮面」のフィジカルなヒーローっぷりが最高に際立っていると思います。

仕事を選ぶ事を忘れた役者陣の痴態丸出しの演技もこの映画の最高の見所だと思います。
主演の鈴木亮平はこの作品のために1年間に及ぶ肉体改造を行ったとの事で、完璧な肉体美にノンケの僕でも惚れ惚れしてしまう程です。
後半までは「顔」と「体」を同時に出さない事で、変身後はスタントマンが演じていると中盤までは本気で思っていたほどです。
「どこの誰かは知らないけれどカラダはみんな知っている」という「けっこう仮面」イズムですね。
SMの女王様が仕事の母親をあの片瀬那奈が痴態丸出しで演じている惨状も、もう、この人がここまでやっているってだけで爆笑&合掌です。
9割方悪乗りで構成されている、ムロツヨシの多分アドリブの演技も大爆笑です。
特に、ムロツヨシが悪の巣窟で手下に対し、ぼそぼそと延々愚痴を言い続けたり、全く脈絡無く突然怒鳴り散らし、不条理な怒りをぶつけたりするアウトオブベース(基地外)ワールドはたまらない物があります。
堤幸彦作品のように現場に居る人間しか笑えないような心底くだらない「悪乗り」とは根本的に違い、観客を意識した「悪乗り」なので、本当に素晴らしく大爆笑できました。
そして、変態仮面の最大のライバル真の変態仮面a.k.a.戸渡を演じた安田顕は、本当に今後の俳優業への悪影響を心配せざるを得ない完璧なアウトオブベース(基地外)演技が最高でした。
戸渡が「強さに変態力は関係ない」とマジ暴露するシーンや、「変態仮面」に勝利した直後の「放って置いてくれ」と言い放つシーンは笑い死にそうになりました。
彼が己の乳首に刺激を与える度に笑いを堪えると同時に妙に共感してしまいました。
「ああ、こいつ、僕と同じ嗜好だ」と。

ストーリーですが、笑ってばかりの本作ではあるけど、その能力のルーツにあの両親ありと言うサラブレッドな設定にK-I-Z-U-N-A-絆-を感じた。
序盤で語られる両親の出会いのシーンですが、ただ大爆笑シーンであるだけでなく、後々親子の絆を強く感じさせてくれる結構良い話的に効いてくる伏線でもあるんですよね。
それと、凄く重要なのが、序盤できちんと市井の人々を救う展開を簡素ながらも入れた事。
ヒーロー物は、市井の人々を救ったり、逆に助けられたりして一般人と関わる展開が無いと絶対に面白くありません。
スパイダーマン3が前作前々作に比べて圧倒的につまらなかった理由がまさにこれ。
無償の活躍を見せてこそヒーローであるし、何よりも、我々観客の視点が、市井の人々の視点ですから、この展開は必要不可欠。
まして、この作品の場合、中盤以降、実に純度の高い変態ライバル達が大量に登場してくるので、序盤中盤までにしっかりした普通の人々との関わりを見せて、観客の基準を確立しておかないと、「変態のインフレ」に頭が慣れてしまって、絶対に面白く無かったと思います。

※ネタバレ反転
ラスボスは日本のヒーロー映画ではもはやお馴染みのとにかくデカイCG製ボスでチープ感まるだしだったのが残念。
低予算ドラマ「勇者ヨシヒコと魔王の城」でもお馴染みの福田雄一監督だけあって、ここの低予算な感じは観客が突っ込めるように仕掛けを入れてくれれば、低予算を逆に利にできたのになあ。
「勇者ヨシヒコと魔王の城」の第1話ラストの、恐らく馬が予算不足で調達できなくて、山田孝之のバストアップの揺れ演技だけで乗馬を演じたシーンは大爆笑したなあ。
ただまあ、劇場用映画で予算が無い事を大々的にギャグにするってのは、流石に正直萎えるからやめたのかも知れないですね。
後、ヒーローの「戦う準備が整うまで敵が待っててくれる現象」はそれ自体はすでに様式なので別に今更悪いとは思わないけど、ムロツヨシに突っ込み台詞の一つや二つ言わせてくれれば笑いに昇華できたのになあと少し残念。


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