「THE GREY 凍える太陽」感想【ネタバレ大目】 | カキオキ

「THE GREY 凍える太陽」感想【ネタバレ大目】

THE GREY 凍える太陽」感想。
僕の上司にしたくない俳優ナンバー1はリーアム・ニーソンに決定しました。
100点満点で40点です。
なんかつっこみ所が多すぎて、いつも以上にやたら語尾に「おかしい」と言う言葉が入る感想になってしまいましたよ。

※ネタバレ大目です。一応、ラストに関する部分はテキスト背景同色にしましたので、テキスト選択でご覧ください。

墜落した飛行機の生存者達が、氷点下数十度の極寒の中、狼の襲撃に耐え、生存すべくあても無く行進する物語。

一人づつ崖から木に衣服を繋いで渡るシーンで、既に半数が渡り終えている状況になってから最後に渡る人物が「実は俺は高所恐怖症なんだ」と打ち明けた時に主人公が放った台詞である「先に言え」がこの作品への僕の感想の大半を代弁してくれました。
ロジック破綻の行き当たり場当たりサバイバル映画。

製作者は伏線は結果の3分位前に張れば良いやと思ってるのかと思うくらい、登場人物の思考や行動や生死、敵役である狼達の出現タイミングなど、一事が万事行き当たり場当たりで作られている映画でした。
主人公以外の生存者達はキャラ立てが最初は殆どされていないのだけど、その人物が死ぬちょっと前で何故か家族構成紹介やら、思い出したかのように咳き込むやら、もう歩けないとしゃがみこむやらの所謂「死亡フラグ」をわかりやすく提示してくれるので、非常に萎えます。
空気みたいな登場人物達に死ぬ直前だけ花実を咲かせてあげようと言う配慮なのでしょうか?

ていうか、この映画、根本的に話のロジックがおかしい。
一応、食料や燃料や風や狼を凌げる壁にもなるため、生存時間が飛躍的に増すであろう墜落した飛行機から離れて、殆どあてが無いのに氷点下数十度の極寒の吹雪の中、狼の襲撃を振り払ってまで、主人公に行進しようと提案させる脚本がまず信じられない。
そして、それに従って生存者達がノコノコついて行くのも完全にありえない。
あの環境の中、生存者達が絶命するまでに歩ける距離は良くても精々トータル100kmと言った所だろうけど、その程度の距離を適当に歩いて人里にたどり付く確立よりも、圧倒的に機動力もあり、狼の襲撃にも対抗でき、その上複数で捜索可能な捜索隊が墜落現場を見つける確立の方が遥かに上だろう。
一応、主人公の台詞で、飛行機50機で捜索しても何十日は見つからないから自分達で動いた方がマシみたいなロジックを提示するんだが、とてもそうとは思えない。
とにもかくにも、待っていてもお話が進まないから、無理やり物語に原動力をつけて行進させてる感じ。
どうしても行進させたいなら、墜落後に飛行機が完全に爆散して役に立つ物が得られないとか、墜落エリアにとんでもない化物が出るから逃げなければならないとか、そもそも主人公達の目的は元々サバイバルではなく、その付近でやらなければならない人類存亡を掛けたミッションがあるとか言ったもうちょっと全うなロジックを付けるべきだろう。
他にもドコソコに行けば狼は居ないし少し歩けば人も居るかもとかも万事が万事裏目に出るし。
拙者はリーアムの下では絶対に働きたくないでござる。

主人公が死亡者の身元を残す為に遺体から財布を集めるよう指示するのもおかしい。
ドッグタグみたいに2つあるわけじゃないんだから、遺体を発見した時に財布が無かったらかえって身元がわからんだろう。
終盤で集めた財布を主人公が積み上げて感傷に浸たるシーンがあるのだが、ハッキリ言ってこのシーンの為に作ったロジックとしか思えないんだが。
んで、その主人公のキテレツな財布集めの指示に生存者達が従うのもおかしい。
一人だけその指示に逆らってたけど、それは上記のような理由ではなく、めんどくさいとかお前に従いたくないとか言った反抗的な理由であって、指示の不的確さに反論した物では無かったし。
この生存者達って、マジで馬鹿ばっかなのかな?

7人も居るのに、見張りを1人にするのも決定的におかしいし。
皆が、朝起きたらアイツ死んでましたwとかさ・・・お話上、そいつを退場させる為に、脚本が無理やり一人で見張りをさせたとしか思えない。

あと、予算の都合が大きいのだろうけど、観客が観たいであろう肝心な所でことごとく時間がすっ飛ばされる。
見たい物見せましょうに応えない、応えられないのは、エンターテインメントとして凄く問題だと思う。
「気がついたら終わってた!」であるとか「気がついたら隣に居た!」とか。

「気がついたら終わってた!」ってのを具体的に挙げていくと、まずは飛行機が地面に激突する瞬間。
本題ではないけど、一応、航空パニック要素もあるんだから、墜落する瞬間は見たいでしょ。
恐らくは、激突カット撮影に予算がかなりかかるし、墜落後の状況との破片の配置やらをすり合わせなければ成らないから、気がつくと倒れていたって事にしたのだろうけど。
まあ、気がつくと変わり果てた世界と状況になっていたと言うのは、それなりに劇的って言うか、劇展開のスイッチの入れ方としてアリだとは思うのでそこはまだ許せた。が、問題はラストのアレ。
右手はサバイバルナイフをテープでグルグル巻きにし、左手は各指の間に小瓶を3本挟み、同じくテープでグルグル巻きにしたのち、それを岩に叩き付けて簡易メリケンサックを作り、アレと対峙する主人公。
ちょっとしたサバイバル豆知識を織り込んだ、急ごしらえの得物を両手に装備して、「さあ行くぞ」って場面で劇中最高の盛り上がりを見せるのだが・・・・www
まあ、そこまでのこの映画のヘタレ具合から予想は付いてたけど、確かにリーアムがアレと戦う場面は画作り出来そうに無いですね。

※ネタバレ反転

「気がついたら隣に居た!」ってのは、主に狼の襲撃。
カメラがパンすると1mも離れてない位置に狼が居るのは確かにドッキリするんだけど、不自然すぎるって!
これが、屋内でのモンスターとのやり取りならわかるんだけど、開けた場所で数人でキャンプしてるのに、誰にも気づかれずに狼が接近してていきなり隣から襲われるってホントに不自然すぎる。
しかも、この展開、劇中2、3回はあったからね。
恐らくは、狼が迫ってくる画を作るのがCGやらなんやらで手間と金が掛かるから、気がついたら隣に居た事にしようとしたのだろうけど、だったら脚本や演出を変えようよ・・・。

んで、「気がついたら隣に居た!」では無く、終盤に「気がついたら"俺"がそこに居た!」って場面はマジでちょっと噴出しました。
ここはコントみたいで笑った。

他にも、焚き火を囲う場面で全員カメラの向こう側に居るとかおかしいだろ。
壁際でなく、開けた場所でキャンプしているので、狼の襲撃に備えて全方向に感覚を研ぎ澄まさなければならない場面なのに、カメラと照明を優先するスタッフの心意気には心底感動しましたよ。
んで、焚き火を囲んでやってる事は、心底くだらない駄話だったり、死んだ狼の首を切り落とそうとする奴を本気で止めようとする不自然な演出が出てきたりで、なんか心底馬鹿馬鹿しくなりました。
どいつもこいつも、人物像の裏打ちは息子がー娘がーって感じに家族頼りだし。

良かった所も二つだけあった。
一つは、前述したアレと戦う寸前の場面。
もう一つは主人公の幻覚で、妻と向き合ってシーツに包まれてる状態から、瞬時に彼女が背中側に引っ張られるように吹き飛んで、吹雪の中での現実に戻されるシーン。
ここは思わず「あっ」っと声が出てしまい、本能に刺激してくる映像だったので、刹那ではあるが、主人公に感情移入できた唯一のシーンで非常に良いカットだなと思った。

個人的に、この映画を改善するなら、脚本の骨子から変えていかないと駄目だと思う。
この映画の主人公は序盤で自殺未遂をしてる自殺願望者だったんだけど、事故を切欠に他人の為にも、とりあえず自殺とかは頭の片隅に置いといて頑張る男になってた。
でも、なんだったら、自殺願望故に死なばもろともで他の生存者を道連れにしようと企むようなサスペンスにした方が面白かったんじゃないのかな。
同じ間違った選択ばかりの主人公なら、本作のように「ホントに選択を間違うアホ」よりも、1人死ぬのも7人死ぬのも同じじゃい!とばかりに「他人を道連れにする為にわざと選択を間違う」迷惑な奴にした方が面白かったと思う。

結論。
本作は、リアルっぽいラインで世界観や画面を作ってるのに、やる事なす事馬鹿ばっかの論理破綻で心底萎えた。
これに比べたら、当時はどうかと思ってた、姥捨て山に捨てられた婆さん達VS人喰い熊の映画「デンデラ」の方が何倍も面白かったよ!
「デンデラ」はリアリティラインもいい感じにしっかり低くバランス取ってて適当にファンタジー感も入ってたんで、突っ込み無用だったし、モロきぐるみの熊との戦いも工夫があって楽しかった。
おまけに、「デンデラ」は誰でも1000円と言う価格設定だったし!

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