「おおかみこどもの雨と雪」感想【ネタバレ割と多め】 | カキオキ

「おおかみこどもの雨と雪」感想【ネタバレ割と多め】

おおかみこどもの雨と雪」感想。
設定以外はファンタジーに逃げない現実的な話。
100点満点で70点です。

ネタバレ割と多めですが、一応観る前に見ても大丈夫程度には抑えてあります。
そもそも、ナレーションがネタバレ全開でドンドン入ってくる作品です。


狼男に恋をした主人公と二人の間にうまれたおおかみこどもの姉弟の物語。

「狼人間」の設定以外は、とても現実的なお話で、宇宙人もゾンビも出て来ないので、リアリティラインの設定が明確で凄く好感が持てました。
狼人間が何故この世に生まれたのか?などと言ったファンタジックなテーマに話が向かずに、お話は常に現実の問題と向き合っていたのが良いです。
期せずしてだろうけど、震災疎開をメタった様な田舎への逃避と、そこでの人間関係の変化も凄く楽しく観れました。

ただ、残念ながら少々生真面目にお話を現実的に作りすぎた為、ドラマ性には乏しいです。
宇宙人もゾンビも出てこないのは良いんですが、せめて生き別れた姉が出てきたり、土砂崩れで生死の境を彷徨ってハラハラみたいな「ハレ」の展開でもあればもうちょっと退屈せずに見れたかなと思います。
要は、丁寧に作られたお話だけど、骨格がシンプル過ぎます。

んで、お話がシンプル過ぎる上に、おおかみこどもの姉の「雪」の未来目線の劇中ナレーションが、冒頭からあまりにも多くの情報を出しすぎて、話の骨格がなんとなく読めてしまうのです。
要はナレーションが序盤から壮大にネタバレしまくってます。
姉の語り口になってる時点で、既に弟の「雨」が最後大体どんな感じに展開していくのか読めちゃいますからね。
もちろん、それはヒントとして頭の中で組み合わせてねって事なんだろうけど、あまりにも情報を出しすぎで「ああ、やっぱりね」って展開ばっかりで意外性が無い。
例えて言うならキャンプファイヤーで一小節毎に全員に先駆けて「命掛けてと!」「い~の~ち~かけてと~」「誓った日から!」「ち~か~った~ひから~」みたいに先導されている様な状態です。
結局、観客としては大筋は大体読めちゃってるんで、ディティールだけを楽しむ映画になっちゃってるかなと。

それだけに、この話の各所のディティールは凄く良くできてるなあと思います。
幹も枝葉も真っ直ぐ過ぎてあんまり面白く無いけど、葉っぱは良く生い茂ってて見ごたえあるなあって感じ。
一例を挙げると、親子三人で新雪の山を滑り降りる場面とか、本人の努力と周りの助言で少しずつ実を生していく農作業の描写とか。
何より、廊下上に横に移動するカメラで二つのクラスを撮影し、時間経過と共に、姉弟の成長や方向性の変化を表現するカットが凄く良い。
ここは素晴らしかった。

どうしても気になる所は、やはり序盤の「獣姦」シーンですね。
「和姦」にして「獣姦」と言う、新しい地平を切り開いた本作ですが、何故あの場面で「彼」は人間モードでは無く狼モードでなければいけなかったのか?
初めて狼男である事を告白されたその晩にいきなりその姿の相手にとセックスとかどう考えてもおかしいだろ。
なんか製作者側が表現のチャレンジをしたかったからそうしたように見えるのよね。
「人と狼の種族を超えた愛」であるとか「彼の全てを受け入れる」みたいな綺麗事を言いたかったんだろうけど、どうしても獣姦表現入れたいんだったら、狼の姿を主人公が受け入れる時間を置くべきだったんじゃないの?

おおかみこども二人の変身時のジャパニメーション的な気持ち悪さも気になる。
父親の変身は良く出来てて、これはこれで別の意味で気持ち悪く、ちゃんと恐怖感じる映像になっている。
人間が狼に変身するのだから、恐怖を感じる表現にするのは当然ですね。
だが、子供達の変身は、オタアニメ的な表現が全開で、気味が悪いの意味が父親のそれとは全く違うのだ。
オタアニメで顔面の1/2を目が占拠しているクリーチャーまがいの美少女とされている物を見させられている気持ち悪さと同じ感覚。
一番顕著な例は「耳」の変形、耳は4つあるんじゃなくて、ちゃんと顔の横から頭のてっぺんに移動しなければならないと思うのだが、この姉弟の耳は何もない所にぴょこっといかにもアニメ的に発生する(ように見える)。
スタンダード狙いの作品なのだろうから、こういったオタアニメ文法は徹底的に配して欲しかったなあ。
予告の時がMAXに気持ち悪かったけど、本編を見る頃には若干慣れたが、やっぱ気持ち悪いな。

ツッコミどころはまだまだあります。
主人公は苦学生で奨学金で大学行ってたのに安易に狼男と中出しセックスで結果大学やめるとか彼共々計画性が無さすぎる。
しかも、彼は狼男ではあるものの、大学の講義にちょいちょい侵入して講義を聞くほどの向学心の持ち主なのに、主人公にこの道を選ばせるってのが納得いかない。
あまりにも不用意で無計画。
根本的に、思考回路が人間とは違うって事なのかな?
後、どう考えても女手一つで二人の赤ちゃん育てるとか、経済的に破綻するんじゃね?

設定以外は現実的な話と上で書いたけど、やっぱり全体的にファンタジーとして受け入れるべきなのかなあ。
まあ、色々書いたけど、凄く丁寧に描かれた良い話でしたよ。
ただし、ツッコミ所は目をつぶるとしても、ドラマの振り幅が明らかに乏しいです。

声優陣は全員素晴らしい演技でした。
文句なし。


同監督による過大評価の著しい前作「サマーウォーズ」よりはずっと面白いです。
本当にかなり良くなってる。

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