「苦役列車」感想【ネタバレ若干】 | カキオキ

「苦役列車」感想【ネタバレ若干】

苦役列車」感想。
邦画に良く有る何も起きないタイプの映画で、良くも悪くも主人公の生態のみが見所。
100点満点で40点です。
原作は未読。


主人公、北町貫多は中卒後、日雇い労働で生計を立て、風俗通いで家賃も滞納し、読書が唯一の生きがいの19歳。
一人称が「僕」なのが非常に好印象かつ僕と同じなので共感を覚える。
彼のどうしようもない性格や行動がこのお話の原動力であり、逆にこのウジウジした性格故に物語がどの方向にも膨らまない停滞力にも残念ながらなっていた。
何かお話があって、そこに主人公が配置されているのではなく、何もお話などない所に、傍から見ている限りは面白すぎる主人公、貫多が配され勝手に色々騒動を巻き起こす感じ。
例えるなら、仕草は異様に面白いのだが、餌は計画性無く無節操にあればあるだけ食い散らかし、与えられた玩具は片っ端からぶっ壊していく不器用なサルを、動物園の檻の前で2時間ウォッチングするような映画でした。

動物ごっことか、飲み屋で酔いつぶれた後の論争とか、終盤のリモコンの奪い合いとか笑える所もありましたけどね。
マキタスポーツ演じる歌手志望崩れの中年、高橋岩男は最初滑ってましたが、その滑りも計算だったのかと思わせるような終盤の展開は良かったですね。
でも、主人公の父親は性犯罪で捕まりウィークエンダーで紹介されたって言う凄い過去があるんだけど、僕的には本編でこの事件を超えるようなドラマは一切無かったな。

主人公、北町貫多役の森山未來は、腫れぼったい感じの目が貫多のモデルである原作者の西村賢太に本当にそっくりだし、短絡的な欲望だけで生きている貫多その物になりきってて素晴らしかったですよ。
友人の日下部正二役の高良健吾も凄く真摯で真っ直ぐな友人思いの人柄が爽やかな笑顔で良く出ていました。
桜井康子役の前田敦子は、時代背景以上に古風な感じでした。
配役としては悪くないけど、前田敦子としての魅力はまるっきり出てないように感じたので、彼女のアイドル映画として観るのは少々キツイかなと。
例えば、おじいちゃんに尿瓶を使うシーンとかはもっと攻めた演技や演出をできたはずだし、もっと面白いシーンになり得たんじゃないかと。

やっぱ2時間さしたる展開もなく面白いサルをウォッチングするだけなのは少々きついなあ。
「ああ、今僕は典型的で退屈な邦画を観ているんだなあ。この映画はシルベスタスタローンのコブラと同じ側の映画なのだろうか、それとも世田谷住みたガールのサブカルお登り女子共が観るような小じゃれた映画なのだろうか。」と考えたりもしました。

この映画、興行成績悪いみたいだけど、それは本当に納得。
映画の出来が良い悪いじゃ無くて、基本お話は有って無い様な物だから、一般人が観て素直に面白いって思わないと思う。


苦役列車 (新潮文庫)