2015年ノーベル生理・医学賞の大村氏の受賞の鍵となった論文とは? | 医学ニュースの深層

2015年ノーベル生理・医学賞の大村氏の受賞の鍵となった論文とは?

 今年のノーベル生理・医学賞は日本からは大村智氏、アメリカからはWilliam C. Campbell氏、そして中国人としては初めての受賞者になる屠呦呦さんの3人が受賞した。
 特に大村氏の功績については、私自身、大学の国際保健学の授業の際に「グローバルヘルス」(地球規模での健康)に貢献している日本人というテーマで取り上げさせていただいたこともあり、感慨深い。

 今回の受賞理由をノーベル財団のHPで見たのだが、上記の3人が開発した薬剤が世界の最貧国の人々を数多く救っていることが強調されており、ノーベル賞の哲学が色濃く反映されていると思う。

 なお、近年、ノーベル生理・医学賞では、key publication(受賞の鍵となった論文)がリストされている。みると、確かにノーベル生理・医学賞は著名なトップジャーナルであるNature, Cell, Science、あるいはLancetなどがリストされることが多い。しかし今回は、いわゆる「著名なトップジャーナル」ではなく、大村氏らのkey publicationは抗菌剤の専門誌であり、中国人のTuさんに至っては、なんと中国語の雑誌である。

Key publications: :ノーベル生理・医学賞2015年のプレスリリースより。

Burg et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy (1979) 15:361-367.
Egerton et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy (1979) 15:372-378.
Tu et al., Yao Xue Xue Bao (1981) 16, 366-370 (Chinese)


 これは生理・医学賞だけに限らない。昨年の報道では、ノーベル賞選考委員長(物理学)がインタビューで確かNatureやScienceに載ったか否かは関係ないとおっしゃっておられたが、昨年の物理学賞や、以前の日本人の化学賞の例を見ると首肯けるものだ。

 生理・医学賞に至っては、以前のマーシャル先生らのピロリ菌の受賞論文はトップジャーナルのLancetだが、まずは原著論文ではなくて(普通は見過ごされやすい)短いコレスポンデンス論文(1983年)が契機となっていたというのも印象的だった(Pincock S. Nobel Prize winners Robin Warren and Barry Marshall. Lancet. 2005 Oct 22-28;366(9495):1429.の記事より)。その後、上記の論文は、その翌年の1984年にLancet誌の原著論文として結実するのだが…。

 科学者として論文がトップジャーナルに掲載されるか否かは些細なことであり、とにかく人類に貢献する良い仕事を論文発表することに尽きるのでしょうね。また、自然科学系では世界で最初であることの証明のために特許申請も大事でしょう。

 それにしても、今年の発表を見ても、ノーベル賞選考委員のものすごい調査能力や慧眼には深い敬意を抱いている次第である。