マウスの尾から神経細胞 iPS経由せず直接作製
研究チームは、神経細胞で特に働いている19の遺伝子に注目。試験管内で、これらの遺伝子をマウスの胎児や生まれたばかりの子などから取った尾の線維芽細胞に導入すると、神経細胞に特有のタンパク質ができた。
このうち神経細胞の分化に関係する「Ascl1」という遺伝子だけでも神経細胞ができたが、さらに「Brn2」と「Myt1l」という二つを合わせた計三つの遺伝子を導入すると、効率よく神経細胞を作製できることが分かった。
このようにしてできた細胞は、情報伝達にかかわるシナプスを形成するなど、神経細胞として機能することを確認した。(共同)
コメント;
「皮膚繊維芽細胞→iPS細胞→(分化誘導)→神経細胞」を、「皮膚繊維芽細胞→神経細胞」にしたのが、今回の論文。 まあ、今回のような手法はDirect Conversionといいます。
今回のは、試験管内ですけどね。それと重要なことですが、今回の方法ならば、癌化リスクが減ると、そこらじゅうのMediaが書いてますが、そんなことは、わかりませんというより、実は、癌化リスクは十分にあるので(笑)、ご注意ください。
Direct Conversionによって、わざわざ細胞を、iPS細胞のように「多能性を持つような高み」にまで到達させなくても、狙い通りの細胞に人為的に変えることができれば臨床的には、そのほうが有用性が高いです。
これは、ハーバード大学では、膵前駆細胞から膵臓ベータ細胞や肝癌細胞から正常肝細胞へという試みなどなどが成功しています。これらについては、すでに、マウス体内で可能なこと示されています。
あとは、さらに、ヒトで成功し、細胞をDirect Conversionできる効率が向上し、そして、それが、低分子化合物のみでできるならば、それで「よっしゃあ!」という情況です。
いまや世界では「iPS細胞テクノロジー破り」(笑)が着実に進んでいるということです。まあ、世界のトップ製薬業界の方々の本音は、iPS細胞よりは、患者体内での低分子化合物による「Direct Conversion」に注力したいようですけどね。
ただ、誤解のないように言っておきますが、これで、iPS細胞が一気に色あせることはありません。1つの方法で、なんでも医療(臨床)問題が解決するわけではないのでね。将来的には、前から言っているように、「(いろんな手法の)併用戦略」が臨床の場では、とられることになるでしょう。それで、現状を超える効果を示す治療方法が確立できればと、当事者の1人として考えています。
それから、Direct Conversionの概念は、山中先生のiPS細胞の延長線上にあるという言い方をする人がいますが、まあ、もっと、わかりやすくいえば、そもそも山中先生らの成果があって、「それじゃあ私も勇気を持って、細胞に遺伝子をぶち込んでみよう!(笑)」ということで、Direct Conversionが加速していったわけです。
・・・で、やってみたら、思いのほか「うまくいった!」ということなのです。
このような情況を踏まえて、この国は、研究投資戦略を立てる必要があります。
たとえば、iPS細胞「だけ」に集中するのは、マズイと思います。iPS細胞研究を発展させるためにも、化学や情報科学などの優秀な専門家を「iPSを含む、幹細胞研究分野」に「まさに、ぶち込め」と前からいっているわけですが・・・。