東大の幹細胞研究シンポジウムに対するマスコミ報道 | 医学ニュースの深層

東大の幹細胞研究シンポジウムに対するマスコミ報道

 前代未聞の傷心の中(笑い事ではない)、先週の週末、本郷の安田講堂で表記のシンポが開催されたので、参加してきました。


 翌日(日曜日)の日本経済新聞の記事については、「京都人さん」がお書きですから、そちらを読んでください。


 一言でいって、日経の報道内容は、ちょっと「飛ばし記事」であり、まるで「東京スポーツ」(大阪スポーツ)を読んでいるようでした(笑)

 iPS細胞樹立に必須のSox2とOct3/4も化合物(化学物質)・・・それぞれRepSoxとRepOctという名前の化合物・・・で代替Okの可能性があるというのが、正しい見方です。

 まあ、klf4がVPAで、ほぼ代替可能ですし、実は、RepKlf4という化合物がKlf4の代りをする見込みも高いので、いっきょに遺伝子の挿入ゼロといいたかったんでしょう。しかしまだ、マウスでの段階で、それも完全には成功していないし、ちょっとオーバーランですね。まあ、完成は「時間の問題」だということは、ハーバードで入手した各種の情報と、類似の研究に関与している1個人としての実感ですが、一般の方々には論文が出てからの報道で十分です。


 なお、全部、薬で細胞を初期化させるのは、必ずしも安全とは限りません。

それだけの能力をもつ薬は、必ず大きな副作用をもたらします。

 薬剤疫学上の常識です。とはいっても、大きな進歩であることには異論はありませんが・・・。


 それよりも、もっと重要なことがなぜ報道されないのか?


・ヒトES細胞とヒトiPS細胞は同じだといわれているが、レチノイン酸に対する反応性が全く違う!後者は、前者の半分の反応性しか示さない。個別に両者を比べると、よく似ているものと、かなり違うものが混在している・・・1月24日の東大でのシンポジウムでの浅島先生(東大 副学長)の発表。


・ また、ヒトES細胞では、すでに「どんな細胞に分化しやすいか、しにくいか」が、かなり、わかりつつある。・・・ヒトES細胞の「個性」といえばわかりやすいですか?
 今後、ヒトiPS細胞でも、こうした「個性」の研究が非常に重要となります。

 臨床応用にむけては、両者をあわせて、例えば「肝細胞にはなりにくいが心筋細胞にはなりやすいヒトES細胞・ヒトiPS細胞群」というようなカテゴライズができ、そこから医療・医学研究目的に応じて最適な細胞を選び出すことができればいい。


 だから、こういうことをやるためにも、まずヒトES細胞とヒトiPS細胞を大量に作製して両者の比較を行う研究がますます必要になるわけです。

しかし、日本では・・・ヒトES細胞研究の過剰規制のおかげで、足が引っ張られています。

 ここをなんとかしないと、国策たる虎の子の「ヒトiPS細胞」研究は、中国にすら負けるでしょう。