「ドナーの気管と自分の幹細胞を用いた気管支移植が成功」した論文を基に・・・ | 医学ニュースの深層

「ドナーの気管と自分の幹細胞を用いた気管支移植が成功」した論文を基に・・・




 他人から提供された気管(気道)と患者自身の幹細胞を用いて作られた
気管支を移植する手術が初めて実施され、成功していることが報告された。
 患者はスペイン、バルセロナ在住の30歳の女性Claudia Castilloさん。
彼女は15歳と4歳の2人の子どもをもつ母親でもある。
 現在のところ拒絶反応を予防する免疫抑制薬の使用が不要で、
子どもの世話をすることが可能になったほか、階段を上ることができるようだ。


 手術を実施したスペイン、バルセロナ・ホスピタルクリニック、

英ブリストルBristol大学、イタリアのミラノ工科大学

及びパドゥアPadua大学の医師らは、今回の手術経過を英医学誌「The Lancet」

オンライン版で11月19日に報告した


 Castilloさんは4年前に咳(せき)の症状が続き、結核と診断された。

その後、肺虚脱にまで至った。

その後、今年(2008年)3月には子どもの世話が不可能になるほど容態が悪化。

治療の選択肢には肺摘出もあった。

しかし、その方法では生存できても生活の質(QOL)が著しく侵害される。

よって、バイオ工学によって作られた「新しい」気道の移植を受けることになった。


 研究チームは、患者自身の骨髄から採取した幹細胞から上皮細胞と軟骨細胞を作り、

脳出血により死亡した51歳の女性から提供された7cmの気管にこの細胞を植えつけた。

4カ月後にできた「ハイブリッド」臓器を、6月に患者の左気管支に置き換えて移植。

提供された気管は25回の「洗浄サイクル(washing cycles)」を経て、

移植した組織に対する拒絶反応の原因となる抗原が除去された。

 この手術による合併症はみられず、Castilloさんは手術後10日で退院したという。


 組織バイオ工学は身体の他の部位にはすでに利用されているが、

これまで気道に利用されたことはない。

 米レノックスヒルLenox Hill病院(ニューヨーク)のLen Horovitz博士は・・・

「幹細胞が提供された気管をうまく覆い、気管と一体化すれば拒否反応は起きない。

この種の移植手術は今回が初めてで、幹細胞を免疫モジュレーター(調整器)として利用し、

臓器を元の型から望ましい型へと変換するもの」と説明する。

 その一方で・・・

「幹細胞が気管提供者の細胞の機能をどれほど引き継ぐことができるかで成否が決まる。

この方法が今後の主流となるかどうかには、より多くの患者での研究が必要」という

慎重な意見を述べている。


 米テキサスA&M健康科学センターのRonald Kuppersimth博士は・・・

「免疫抑制薬を使用する必要がない点でこの新しい手術に大きな期待を示しており、

肺癌患者のように免疫システムが低下している患者にも有用なものとなる可能性がある。」

と述べている。



・・・というニュースですが・・・、

この論文をネタにして先ほど学生さん相手にゼミをやってきました。

 元の論文(Lancet・・・医学界のトップ誌に掲載されている)の要旨を当番の方に、

10分でプレゼンして貰って、その後、皆で様々な角度から論文の批評をします。

 その後、それらを踏まえ、この研究を発展させるために、どのようなアイデアがあるか

・・・などを議論してもらっています。



 この論文は、幹細胞研究の現状の到達点を示す論文の1つです。


 ただ、今話題の患者由来のiPS細胞が安全に用いることができるようになれば、

この臨床研究が抱える現状の問題点を大きくクリアできるようになるでしょうね。

患者由来のiPS細胞の樹立効率の向上と安全性の向上は、まだ両立しません。

 が、この問題をクリアする端緒になる発見を我々は、ハーバード大学との共同で

みつけ、今、論文作成中です。