先日、SF作家の小松左京さんが亡くなりました。小松さんの代表作『日本沈没』は2度も映画化されていますが、1度目の映画化作品に、当時東大教授だった竹内均先生が出演されていて、マントル対流説を説明する場面があります。

 

 竹内均先生は、地球物理学の世界的権威でした。そして、旺文社のラジオ講座やNHKの教育テレビにも精力的に出演されていた教育者でもありました。

 今年の東日本大震災で、しきりと「プレート型の大型地震」という表現がなされましたが、竹内先生が提唱されたモデルによって、日本で起こるプレート型地震のメカニズムが解明されたと言ってもいいでしょう。映画「日本沈没」で竹内先生は、まさにそのモデルを説明されているのです。

 先生は東大教授を退官されたあと、雑誌「ニュートン」の編集長をつとめられ、2004年に永眠されました。

 

 今回ご紹介したいのは、竹内先生の東大教授時代の著作『地球科学における諸問題』です。

 

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 この本は、測地学、地震学、地球潮汐、地球振動、地球電磁気学などの諸分野から100の例題を集め、それを詳細に解説した問題集です。地球科学に関する竹内先生の著作の多くは図がふんだんにつかわれているのですが、この本は徹頭徹尾ビッチリと数式で埋め尽くされた専門書です。おそらく、地球科学の古典的名著と言っていいでしょう。

 

 竹内先生の自叙伝『学問への憧憬』(佼成出版社、昭和60年)の中で、竹内先生はこの『地球科学における諸問題』を「定年のための一種の記念事業」として自費出版され、「生前の葬式をしたようなもの」と表現されました。「私の先生であった坪井忠二先生は常に、『学者は長い一生の間に研究したことを一冊の本にまとめ、この方面の後世の専門家のためにこれを出版しておくべきである』といっておられた。……まだ元気のある間にこの種の本を作り、できたらこれを自費出版したいと私は考えていた」と、竹内先生は書いておられます。それだけに、この本は竹内先生の、学者としての入魂の著作といっていいでしょう。


 

 竹内均先生は、私が特に尊敬する人物の一人であり、特別な思い入れがあります。

 

 地球や宇宙に関して、私は幼いころから興味をもっていました。大学受験の時も、当時の共通一次試験(現在の共通テスト)の理科は地学を選択しました。

 その受験時代、代々木ゼミナールでは年に数回「教養講座」が行われ、「地震のなぞ」と題した竹内先生の講演会が「教養講座」の枠で行われました。私は興味をもってそれに出席したのです。

 その講演では、ウェーゲナーの大陸移動説に始まる地球科学のダイナミックな研究成果がわかりやすく紹介され、日本で起こるプレート型地震のメカニズムがみごとに解明されていました。……私はその講演内容にすっかり魅了され、そのときから『地球の科学』などの竹内先生の著作をむさぼるように読み始めたのです。


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 翌年、竹内先生は同じ代ゼミの「教養講座」で同じ講演をされました。私はこのときを逃さず、『地球の科学』などを読んで疑問に思ったことを、講演のあとで応接室におられた竹内先生のところに大胆にも質問しに行ったのです!……当時大学一年生だった若造の私に、竹内先生は懇切丁寧に答えてくださいました。「ありがとうございます」とお礼を申し上げた私に、先生は私よりも深く頭を下げられたのでした。正直、感動しました。

 このとき、私が持っていた『地球の科学』に、竹内先生は以下のようにサインしてくださいました。


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 その後、地球科学をさらに深く学んでみたいという思いはやみがたく、社会人になってから放送大学に学士入学して、濱田隆士先生の「固体地球」「日本列島の地球科学」などを学びました。

 

 しかしながら、『地球科学における諸問題』は、今でも私にとってそびえ立つ巨大な山脈です。ベクトル解析や偏微分方程式、弾性体の力学や流体力学など、かなり高度な数学と物理の知識なしには読めません。でも、不思議と「これは理解できない、無理だ…」という思いにはならないのです。「まだまだ勉強したい。いつか、これを読破したい!」という思いになるから不思議です。

 

 「勤勉・正直・感謝」……竹内先生がサインしてくださったことばを、自分がどれだけそのとおりに生きたかと問われると、なんとも恥ずかしい限りです。でも、このサインを見るとき、質問させていただいたときの先生のあたたかいまなざしを思い出します。

 

 最後に、竹内先生が「大学受験ラジオ講座」のテキストに書かれたことばを紹介したいと思います。今でも、思い出すと胸が熱くなることばです。


 

 諸君の人生に大きい夢と目的を描いてください。諸君はまだ若いのだから、その夢がどんなに大きすぎても、大きすぎるということはありません。

 この夢に向けて、今すぐに第一歩を踏み出してください。この第一歩がどんなに小さくても、小さすぎるということはありません。

 その歩みを、どうかいつまでも続けていってください。人生ではただ継続だけが力です。

 このような歩みを続けていって、仮にいくらかの成功を得たとしても、諸君は若い日に抱いた「初心」をどうかなくさないでください。青年の日の夢を、いつまでも持ち続けてほしいということです。