夢に現れた彼女を思わずきつく抱きしめた――












If I can meet in a dream 2










「ゴメン…心配かけちゃったよね…」
「そんなことより…大丈夫なのか?」


夢の中の登場人物に言うのもおかしな話だが…現実と似たような言葉で質問する
俺に、香は頭を振った。


「ん……大丈夫。ただ…………」
「ただ………?」


続きを促す俺に向かって香は何でもない…と曖昧に笑いながら誤魔化し俺の胸に
顔を埋めてくる…。
そんな彼女の髪を優しく梳いていると、香は小さく溜め息を吐いた。



「夢の中の僚はこんなに優しく抱きしめてくれるのに…」


彼女の言葉に不意を突かれた俺は動きを止めた。
それに気付いているのかいないのか…香は話し続ける。



「やっぱりあたしなんかじゃ女として見てもらえないのかな…」


ここで『違う』と口を挟むことも考えた。
だが…彼女がどんな気持ちでいるのか知りたい気持ちの方が強く――
俺は黙って香の言葉に耳を傾けることにした。



「僚みたいな性欲の塊みたいな人がなかなか手を出さないってことは、あたしに
女としての魅力がないからなのかな…。」



……いったい何を言い出すのかと思えば――

だが…彼女を想う気持ちの余り手を出せないのは事実だし…。
そのせいで香をこんなにも不安な気持ちにさせてるのだろうか。



直接、本人に向ってなんてきっと言えやしないだろうけど…せめて夢の中なら―



彼女に自分の正直な思いを話し始めた…。
それを聞いた香は小さな声で――


「これは夢だから…僚は優しいんだ…」


そう呟く…。



これ以上何も聞きたくなかった俺は彼女を抱き寄せると半ば強引に唇を奪った―






*     





鬱屈とした気分のまま朝を迎えた。


『夢』で彼女に逢えた後に迎える朝は大抵いつも…起きた後も幸福感が残る。
しかし…今朝はその感覚がない…。


自分に〝女〟としての魅力がないからいつまでも関係が進展しないのではないか
――
彼女はそう誤解していた。



――こんなにも本気で愛した女はいないというのに…。



自分のせいで香を不安にさせていたとは――



己に対するそんな腹立ちと同時に俺の心を占めていたのは、より一層深まった〝
謎〟だった。


噛み合わない筈の会話が噛み合ったあの時に芽生えた疑問…。

香もまた俺が見ている『夢』を 見ているのではないかという疑い…。
その疑いは払拭されないまま俺の中に居座っていた。


あの『夢』が…自分一人で見ている『夢』なら、 あんな会話は成立しない。





『夢』は『夢』に過ぎず…甘い幻は霞と消えて現実を思い知らされる…そんな結
末――
彼女の来訪が夢だと信じたあの日からいつかそんな最後が来ると覚悟していた…





――所詮夢は夢――



それは理解っていたけど少しでも長く幸せな夢に浸っていたかった。
長く続けば続く程…夢から覚めた時のダメージが酷くなるのを承知の上で――

それでも毎晩彼女の訪れを待ち侘びていた…。

しかし――こんな訳の解らない事態に陥るとは…予想もしてなかった。



――…一体どうなってるのか…――




いくら頭を抱え込み悩み考え込んだとしても答えが出るわけではない…。








*     








――その日の夜、俺はますます混乱に陥るモノを目にすることになる――






きっかけは些細なことだった。



香が伝言板を見に行った際、依頼が入っていた。
問題はそれが男からの依頼だったことだ。



俺の返事を聞かず依頼を引き受けようとする香を制したことが原因だった。
どんなに言われようとこれだけは譲れないのだからどうしようもない。


〝自分のポリシーを曲げてまで引き受けることは出来ない〟


そう言い切ると香は例の如く、山程のハンマーを召喚して俺に投げ付けてきた。




その時だった ――





昨夜の夢の中で俺がつけたのと所有の証 ――
鎖骨の少し下に朱色の痕跡が見え隠れしていた…。


それを見た俺は咄嗟に香の腕を掴んで引き寄せ……。





当前のことなのかも知れないが――

夢に現れる〝彼女〟の躰には前回の行為の跡など一つもなかった。
そんな彼女の躰に繰り返し所有の証を俺は残した。

そして…目の前の香に付いてる痕は、夢の中で俺が付けた場所…寸分狂わないと
ころにそのまま残されていた。

コレが意味するところはいったい何なのだろう。





頭が一瞬真っ白になった俺だったが、香の言葉で我に返った。


「僚…どうしたの?もしかしてハンマー投げ付ける時、頭にも当たっちゃったの
かな。」

掴んでいた腕を離すと香の方へ手を伸ばす。
朱色の痕にそっと触れると――



「香…この赤くなってる所どうしたんだ?」
「えっ?どこ?」



香は慌てて俯くと俺の指してる場所を確認し始めた…。
怪訝そうにそこを触れながら――

「本当だ…どうしたんだろう。…痒くないみたいだけど…〝虫刺され〟かなぁ?」




先程確認した香の首元…。
鎖骨の辺りに在ったのは…昨夜、俺がそこに唇を押し当てた後に出来た朱色の痕



――間違いなんかじゃない――


やはり…あれは只の夢なんかじゃなかった。
しかし確信が出来たのはそれだけだった。



だが…俺は長らく抱いていた迷いを捨てる覚悟を決めた…。


チーの平穏な日々



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しっかりお話を読んでくださっている方なら

この絵を見て何かに気付くはず・・・





痣の位置間違えたぁぁぁ・・・叫び


玲央様ゴメンナサイしょぼん