日本で国際免許を申請して所持してきた私は、

3人で唯一の車を運転できる人だった。

 

通訳、カメラマンは二人とも、運転は自分の仕事ではない、と

考えているからか、呑気にしていた。

 

私は、このときまで海外取材を数回、経験していたので

その厳しさを知っていた。

これまでの経験に加えて、今回は運転手と道案内も自身でやることになった。

 

大変なことになった、きちんと取材ができるだろうか。

不安な気持ちのまま、全長5メートル近くある立派なレンタカーに乗り込んだ。

 

運転はひとり、地図を見るのもひとり、お客と勘違いしている2人を乗せて

目的地の湖水地方に向けて出発した。

 

すぐに問題が起きた。

ランナアバウト(日本語表記はラウンドアバウト:環状交差点)などの交通ルールがわからない。

環状交差点にも大小あるようで、小さな円の交差点は、他人がいれば待ち、

出るのを見てから、中に入って出ていくということなど、わからないことだらけ。

 

止まっては地図を見て覚えて走る、を繰り返しながら距離を走れるように

なったころ、また問題が起きた。

 

バックできないのだ。

レンタカーはマニュアル車だった。

だが、バックギヤに入れようとしても、どうしてもギヤが入らない。

レンタカー店では普通に走っていたのになぜだろう。

 

誰かに聞きたいのだが、郊外なので人がいない。

やっとパブを見つけて、車の操作を教えてくれないか、と頼んだ。

 

当時の英国車は、バックギヤに入れるには、

ギヤのレバーに付いているフックのようなものを上にあげながら

ギヤを操作する必要があった。

教えてもらって、へえ、そうなのかと驚いた。

 

車は、郊外から丘陵地帯に入り、道が狭くなった。

そして、日が暮れて、真っ暗になった。

 

ホテルに着いたとき、無事、着いたという安堵感と、

初めての国のドライブで疲れきっていた。

 

しかしこの夜、ホテルのレストランで人種差別(たぶん)を受けた。

ホテルは観光地にある大衆的なホテル。格式ある有名ホテルではない。

 

宿泊客としてレストランに入った。

案内された席は、どういうわけか、厨房と客席との通路に無理に置いたテーブル席だった。

厨房で料理を受けたウエイターがドアを蹴って出入りする通路、

そこに私たちだけのテーブルがある。

 

従業員の誰かが、ターゲットを決めて

ときどき、こんなことをしているんだろうな、と思った。

しかし、疲れていたので腹は立たなかった。

 

私たちの行先を聞いて、小型車から2グレードも上級の車にしてくれたのも英国人なら

セコイ差別をしたレストランの従業員も英国人。いろいろな人がいる。

 

翌朝、このホテルでの連泊をキャンセルして

B&B(ベッド・アンド・ブレクファスト/民宿)に宿泊することにした。

 

湖水地方は、日本の富士五湖周辺と軽井沢を合わせたような場所だった。

湖があって、丘陵があり、自然がいっぱい。

「ピーターラビットの物語」の舞台だった。

 

湖とその周辺を取材した私たちは、民宿に戻った。

明日は、丘陵地帯を越えて海岸側のセラフィールドへ行く予定だ。

 

その朝、また事件が起こった。

 

「こっちの大きい車にしておいたからな。いい車だろ」

レンタカー店スタッフの粋な計らいに、またもや感謝することになる。

 

(続く)