WEC世界耐久選手権 第80回ル・マン24時間レース レポートvol.2 | レーシングドライバー井原慶子のおもいっきり行こう!

WEC世界耐久選手権 第80回ル・マン24時間レース レポートvol.2

WEC世界耐久選手権 第80回ル・マン24時間レース レポート

vol.2~世界NO.1スポーツイベントになった第80回ル・マンの始まり

                     

6月9日(土)

パリ・シャルルドゴール空港に到着すると、NHKドキュメンタリー班がカメラを向けて出迎えてくれた。ディレクターの質問に意気込みを語りながら、彼らとレンタカーに乗り込みル・マンへ向かおうとすると、携帯の電源電話が鳴った。

「あのー英会話教室に入会したいんですけど・・・。」

ちょっと拍子抜けした。4年前に地元で始めたキッズイングリッシュスクール。今まで日本の方々にお世話になってレースデビュー当時の目標を達成できたので、何か微々たるものでも地域に恩返しできればと思い、4年前から地域で子どもたちに英会話を教え始めた。その入会問い合わせだった。

テンションは、明日の開発テストに向けた戦闘モードだったため、気が抜けた。

6月9日(水)夕刻@パリ

気が抜けてさらにリラックスしよう!ということで、空港からパリ市内中心のオペラ座に向かった。目的はラーメン!

腹が減っては戦はできぬ!?

一時帰国の日本では、好きなものを食べてきっちり休んでからル・マンに集中しようと思っていた。生ビール!お寿司!焼肉!すべていただいた。

しかし・・・ラーメンを食べ損ねた!!!準備段階で心残りがあっては、本番でやりきれない!と言うことでパリ到着直後オペラの日本人街に直行した。

フランス人も行列を作るラーメン屋さんでしっかりラーメンをいただき、ル・マンに到着すると、すでに23時になっていた。


今夜の宿泊はフランスの古城。到着すると、美人チームマネージャーと古城主のおばあさんと、優しい顔でゆっくり尻尾をふりながら寄ってきたラブラド—ル犬があたたかく迎えてくれた。通された部屋は、チェスルームやティールームなど何間もある部屋だった。鹿をはじめ鳥などたくさんの剥製が飾られ、このお城のご先祖と思われる方々の写真が豪華な額縁の中からこちらを見つめているようにも感じる。




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『ちょっと怖いような・・・・いやいや怖くない早く寝よ。』

背筋が固くなってきた気がしたが、ベッドに倒れこむと3秒で寝むれた。。。1月のドバイ24時間レースから休みなしのスケジュールのおかげで怖さより眠気が勝ったようだった。

6月10日(日)ル・マン24時間車検

いよいよ第80回ル・マン24時間ウィークが始まった。

例年、ル・マン市の中心で大きな教会を背にしたジャコバン広場で行われる車検。今年はジャコバン広場がメトロの建設工事で使えず、リパブリック広場で行われた。ル・マン24時間レースに参加する全レース車両が間近で見られることもあり、レース1週間前にもかかわらず数万人の観客が車検を見に集まってくる。

レーシングドライバーもヘルメット、レーシングスーツをはじめすべての装備品を持って検査を受け、レジストレーションする。人も装備品も車もすべてが検査をパスすると、車検合格。私たちガルフレーシングは、今大会参加56台中一番最初に車検を通過した。


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その後、待っているのは、世界各国からやってきたメディアからの囲み取材と、ドライバーオンステージ。今年唯一参戦する女性ドライバーと言うことで、たくさん取材していただき、数万人が囲むステージの壇上に上がると、まるでスター気分だった♡

『これが世界最高レース、ル・マン24時間なんだ!すごい!』

6月11日(月)12日(火)

車検後の月曜日、火曜日は、走行枠がない。静まり返ったサーキットも少しずつ祭りの準備が進む。メインゲートを入ると、NISSAN、AUDIなどたくさんのブースの建設作業が進み、お土産屋さんも店を開き始めた。ピットでは、フリー走行に向けてマシン整備とミーティングが繰り返された。




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我がチームガルフレーシングミドルイーストは2台のマシンで参戦。6人のドライバーで戦う。チームメイトのステファン・ヨハンソン選手は、F1、インディ、ルマン24時間レースなどを渡り歩いてルマンを制した経験があり、元F1ドライバーのファビアン選手と、今回新規加入したマーク選手もル・マンには毎年出場。私の29号車でタッグを組んで乗るジャン・デニ選手もF1で活躍し、ここル・マン24時間レースで2回優勝経験がある。

「この月曜日と火曜日にしっかり休んでおくんだ。今のリラックスが完走への唯一の道だ。」

経験豊富な彼らからル・マン24時間レース初挑戦の私へのアドバイスだった。

しかし、全く休む時間などなかった。昼ご飯を食べる時も夜ご飯を食べる時もいつでも取材スケジュールが入っていた。うれしい悲鳴だけれど、さすがに疲れていた。女性ドライバーである私は、他の男性ドライバーよりよく食べ、時間があればあちらこちらで休み、準備や走行中にちょっとした工夫をすることで男性と共に戦ってきた。しかし、今はその時間をとることができない。




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この疲れを吹き飛ばしてくれるのは、ただただ「世界最高峰ル・マン24時間レースに伝説のガルフレーシングからLMPでついに参戦できる!」と言う気持ちだった。