ある男の元に訃報が届いた。
なき伯父の妻である伯母の訃報だった。
父は五人兄弟の五男坊。四男の伯父の妻。

子供のいなかった伯父は彼をとても可愛がってくれた。
幼い頃のアルバムに伯父と写っている写真が多くある事でも分かる。
彼は4歳の頃にひとりで叔父の家に泊りがけで行った。
夕方有馬温泉の駅で降りて、温泉街と反対の方に歩く。道が斜めに山に沿って続いていた。昭和27年当時、街灯も無く伯父に手を繋いでもらって歩く。全く恐怖心は起こらなかった。
やがて道は谷を下り小さな木の橋を渡り、谷を登って少しした所に伯父の家がある。
伯母が笑顔いっぱいで迎えてくれた記憶がある。

その時から毎年春と夏、伯父の家に10日近く泊まりに行っていた。
伯父はそれほど饒舌ではなくもっぱら伯母がいつも話し相手だった。
伯父の家の隣に、彼の本家の別荘もあり祖母も良く滞在していた。やがて弟も一緒に来るようになり、弟は祖母と別荘に泊まるが、それでも彼だけは伯父の家で寝ていた。

いつの頃からは分からないが伯父には別宅がありそちらに帰る事がほとんどで本宅には伯母が愛犬と共に暮らすことが多かった。
多分彼が泊まるようになった頃からそう年月がたたないころから伯父には別宅があったと思う。

しかし、彼が泊まるときには伯父は必ず帰ってきた。
愛おしい息子に逢うのが楽しみのような笑顔で。
伯父も伯母も他の従兄弟達にはそれ程の愛想もしない。むしろ伯母は子供嫌いと思われていた。
彼の一族で彼が可愛がられているのは不思議の一つだったらしい。

彼は思う。
彼が泊まる春と夏の20日間は普段疎遠のような伯父夫婦、特に伯母にとって団欒と楽しい時間が過ごせ、伯父との家族の絆を深められた事もあり、彼を愛しんだのかもしれない。
幼い彼に伯母は伯父の自慢をしていた。とても仲の良い夫婦のようだったと彼は思っていた。

高校、大学に彼がなると伯父の家には少しづつ遠ざかってしまった。
それでも伯父が彼や弟の自慢を取引先の方にして先方は息子自慢かと思っていたと、伯父がなくなった後知った。
伯父が亡くなった時、彼は伯母は伯父を愛していたのだなとあらためて思った。

その伯母が施設に入ったとき、彼は訪ねた。
伯母は本当に喜んだ。
しかし、その後行けずに伯母の葬儀を迎えてしまった。
彼の入学、結婚を心から喜んでくれた伯父と伯母。
特に伯母の孤独を思うと、もっと逢っておけばよかったと彼は思う。息子のように。