そろそろこの小説について書かねばなるまい。



周知のことだが、この作品は、いわゆる〈書き直し〉である。
初出から長い年月を経て、〈書き直し〉はどうやら成功したらしい。

さて、一読者として言わせてもらうならば、作家がこだわるその〈書き直し〉に、読者はそこそこ長い時間付き合わされた というのが実感だ。

御大が〈裸の王様〉にならぬよう、敢えて書かせてもらう。

思い出したのは、私があまり好きではない爆笑問題太田光がかつて言っていたこと。
「たった一滴スポイトから落とした水をうす~く、うす~く引き延ばして、でっかいシミをつくったような、わざとなが~くしたような長編」みたいなことを、確か太田くんは言っていたかな…。

その太田くんの言葉、今回の村上作品に限っては、言い得て妙だと、正直思った。

まあ、敢えてというところもあるのだけれど、少しずつ少しずつ、時間をかけて読ませてもらった。
というよりも、これはさすがに一気読みできるタイプの小説ではないよね。私の周囲にも挫折者続出で、過去イチの駄作ではないかという声も上がっているくらい。その気持ちわからなくはないのだが…

だが、しかし…、

それでも私、読了後、しばらくロスでしたね。

この事実にどう落とし前をつけるのか。

要するに私がハルキストの端くれであったということなのだが、いやどうもそれだけではないような気もする。

『~ハードボイルド・ワンダーランド』の静謐な方が今回は両極で展開されるといった雰囲気なのだが、絶望と希望との静かなラリーが終わりに近づいてどっちに傾いてゆくか…、

やっぱ読ませます。

エロがないのも今回は良い方に転んでいると思うが、実は個人的には添田さんにかなり惹かれている。件の少女よりも、後半のコーヒーショップの女性よりも、断然添田さんですね。

てか添田さんにエロを感じるって、やっぱ俺変態なのかなぁ。
でもそんな自分がとてもいとおしい。

賛否あるのは重々承知だが、私は結局この作品をしっかりと受けとめられたのだと思う。
ロスを埋める日々、時々自分の影があるかどうか確認してみたりする私なのであった。