昨日はAlphaの導入を決定されたユーザーの病院見学をアテンドした。
これまでに何度か訪れさせてもらっているが、隈なく見学させてもらったのは5年ぶりだ。
ITベンダーという立場で丸6年、精神科医療にどっぷり浸って僕の感度も些か進化したのだろうか、それとも何かに感化されたのだろうか。5年ぶりに目の当たりにする午前カンファレンスの迫力にとにかく圧倒された。
各部門のスタッフが集まり、病棟回診後の朝9時から約1時間半を掛けて、患者に関わる最新の情報を細やかに共有し、議論し、次の方針を決めるのだ。医療従事者ではないのに眼前の熱に自然と気持ちが引き込まれる。気がつけば、僕の中に意味不明の参加意識が芽生えていたりする。あつかましくも終えた時に充実感と疲労感を感じるのはなぜだろう。こんなことを毎朝続けられるわけだから、スタッフ一人一人の高い使命感と、組織の一体感にどうしたって感動してしまう。外来、病棟、グループホーム、宿泊型自立訓練施設。。。それぞれの部署による見学者に対する説明の中には同様のポリシーを耳にする。患者自身が自立して社会復帰に向けて歩むためにどういった支援が必要なのか?随所にそのための工夫と覚悟が垣間見える。ひとつの明確なベクトルがこの組織の行動エンジンとなっていることは間違いない。長年かけて醸成してきた文化の凄み、これがブランドというものだろうか。
座談会の時の理事長の言葉は刺激的だ。でもそれは本質を捉えているからなのだろう。
「澱んだ川には、その澱みを好むものが集まる。だから、まずは澱みをなくす努力からはじめることが先決だ。でなければ、やる気のある人間は潰されて去っていく。」
「患者を治療するより、職員意識を変えることの方がよっぽど難しいし、時間が掛かる。」
「患者をみていない証拠じゃないか。だから信じられないんじゃないか。」
「上質な患者同士のコミュニティを作り出すためにどうするか。それが大切なことだと思う。」
どれも辛辣だったが、それは理事長自身が今もって自らに突きつける切っ先の鋭さ、厳しさから生まれるものではないか。そう感じる言葉の数々だった。
「私たちの病院はまさにこちらの20年前の状況にあります。先日ある方から貴院の特徴は?との問いにまともに答えらず大変恥ずかしかったのですが、そんな厳しい現状を認識した上で、今すぐに変えるための行動に移らなければならないと強く感じました。大変でしょうが、挑戦しなければ私たちは座して滅びるしかないのですから。」
見学された病院の事務長の感想だ。焦燥感、危機感、そして事務部門としての厳然たる限界。忸怩たる気持ちも含めて事務長とずっとお話ししてきたことだ。やりがいのある職場づくりと、患者に選ばれる病院づくりとは地道な研鑽の積み重ねのずっと向こうにあるもの。実現への道のりは極めて険しい。だからこそトップがどこかで決心し、覚悟し、断行しなければ、改革など進まない。これは介護コンサルである我が母がよく口にする言葉でもある。

繰り返しだが、僕は医療従事者ではない。従って上記の僕の感想は当然専門的裏付けなどない感傷的な内容だ。しかし、僕が改めて目にしたこの病院が発する熱は僕の中の何かを強く強く煽る。これでいいのか?このままでいいのか?組織をどう率いるのか?それはやはり僕の中の危機感なのかもしれない。だからちょっとしんどかったが、1日の見学で得たものの余韻がとても心地よい。そう感じた。
私はい組の代表を務めつつ、精神科病院向け電子カルテシステムのメーカーである株式会社ベータソフトの経営陣のひとりでもある。そのベータソフトが6年前に「倒産する」という噂を流布されていた頃のことだ。どの商談もその悪評が影響して全くうまくいかなかった。当然新規ユーザーの獲得も難しく、売上もかなり落ちた。そんな中、なんとか内示を受けるところまでこぎ着けていた案件が急にキャンセルされた。原因は、ユーザーが依頼していた信用調査会社による与信結果であった。良い製品だし、良い提案だが、中核システムを委ねる企業としてはその「継続性」に疑問が残るため選択できないということだった。その時はとても悔しかったが、今考えてみれば、そのユーザーの判断は論を俟たないものだった。

ところで、電子カルテが承認されてから16年目を迎え、相互運用性と地域連携に向けた診療情報の標準化も進んできたが、依然としてメーカー間のデータの互換性はないため、電子カルテの3原則に則り、異なるメーカーの製品間における診療データの完全移行は不可能である。つまり、最初に選択したメーカーの製品を余程の理由がない限りは使い続けなければならないということを意味する訳だ。実際、大手コンピューターメーカー系製品のほとんどは、Windowsサポートや、ハードウェア保守の打切りのタイミングで最新バージョンへのリプレース(つまり新製品への買い直し)をユーザーに要求してくるが、様々な不満を抱えつつも同一メーカーの新製品に切り替えているのは、診療データの継承という問題があるからだ。この問題は医事会計システムの時代からのものであったが、電子カルテにおいても同様に抱えている課題であり、取り扱う情報の内容を考えれば、その問題の深刻さは医事会計システムやオーダリングシステムの比ではない。従って、製品検討時には当然最優先で留意すべき事項だろう。
ところが、稼働後から日々蓄積され、膨れ上がる診療情報を永続的に利用できるのかといった重要事項に関わる《継続性》という点については、医療機関自身が意外と正確に認識しておらず、購入時においても重視されていないのが現状だ。実はこれこそが電子カルテ導入における最大のリスクだというにも関わらずだ。
どうだろう。現在の電子カルテの意思決定に関わる評価項目はおおよそ下記のようなものではないだろうか?
⑴システムのプレゼンやデモにおける評価
⑵RFP(提案要求書)を使用した機能及びサービスの評価
⑶コストに対する評価
ご覧の通り、《継続性》に関わる評価はまず含まれていない。たまに気の利いたITコンサルがRFPにそれらしき要求項目を入れてくることがあるが、内容的には全く不十分であり、そのプライオリティについても曖昧だ。単なる電化製品ならば機能と価格で決めることも可能だ。壊れたり、その使い勝手に満足できなければ買い直せばいい。しかし、電子カルテは電化製品とは違う。病院業務に深く食い込む道具であることはもちろんのこと、大切な診療情報を抱える中枢システムである。失敗したからといって簡単に別のものに置き換えることなどできないのだ。使えば使うほど診療情報というデータ資産の価値が上がり、システムを変更することが極めて難しくなることは想像するに難なくない。

ここでひとつ、電子カルテに関するトラブル事例をご紹介しよう。
某メーカーの電子カルテを導入した精神科病院では、システム稼働後間もなくレスポンス問題に見舞われた。クライアント単位でタイムアウトエラーが発生し、アプリケーションがダウンするのだ。当然メーカーに改善要求し、サーバーのメモリアップを実施するなどの対策を講じた。ところが数ヶ月後またもや同様の障害が頻発しはじめた。なぜなら、原因はデータベースの構造的な問題にあるため、サーバー増強は急場凌ぎでしかなかったのだ。データのボリュームが膨らむにつれてレスポンス問題は更に深刻化していった。というのもサーバー増強を行っても改善効果が見られなくなってきたのだ。メーカーに強く言っても埒があかない。システム構造上の問題のため、そのメーカーにしてみても抜本的な解決に繋げる手立てが見つからなかったのだろう。しかし、医療機関側にとってみれば日々のことであり、死活問題だ。やむなく他社システムへの入替を検討せざるを得なくなった。そこで問題となったのがまさに《既存システムからのデータ移行》だ。結論としては前述の通りデータ移行は不可能であった。移行できるのはせいぜい医事会計システムからの患者の基本情報程度であった。それどころか事態はもっと深刻であることが判明した。なんと既存システムからは、カルテ情報を印刷することすら出来ないというのだ。このことがトリガーとなってシステム入替が頓挫してしまった。こうなると誰にも救えない。そうして手をこまねいている間にも情報は蓄積され、ますます入替の決断が難しくなっていった。その医療機関は現在もレスポンス問題と今後の対応方法について悩み続けている。
カルテの保存義務は治療を終えてから5年後までとされている。しかし、治療上の理由や訴訟等のことを考えれば、5年経過したからといって簡単に廃棄できないのが現状ではないだろうか。まして完全治癒の難しい精神疾患では、カルテを生涯にわたって管理していく必要がある。従って、システム入替という苦渋の決断をしたとしても、データ移行ができなければ過去のカルテ原本情報は既存システムで保管し続けるしかない。また見読性の視点からも既存システムを引き続き維持・管理していく必要性も考えられる。
また、精神科電子カルテは、メーカー毎に電子化の対象範囲が異なる。例えば、相談室の記録を電子カルテ機能の範疇としている製品もあれば、相談室管理システムの機能範疇としている製品もある。データの互換性もない上に、データの移行範囲も異なるわけだから、余計に問題を解決することは難しい。どうだろう。これは病院経営にとって危機的な事態ではないだろうか。

では継続性の評価とは具体的になんだろうか。
まず一番最初に評価しなければならないのは、そのメーカーの、
⑴企業の継続性に対する評価
⑵事業の継続性に対する評価
についてだろう。
企業の継続性とはいうまでもないが、そのメーカーの《経営状況=企業与信》について評価するということだ。6年前のベータソフトはまさにこの部分で厳しい評価を受けて、キャンセルされた訳だ。電子カルテという数千万、場合によっては数億という大規模投資においては、検討業者に関する直近の経営状況と今後の見通しを可能な限り収集し、確認し、評価することは当たり前のことだろう。しかし、このあたりのことが全く行われていないのが実情だ。実は評価方法は簡単だ。帝国データバンクや東京商工リサーチといった信用調査会社に依頼すれば経営状況の詳細を把握することが出来る。費用は掛かるが、選定メーカーが倒産して製品サポートが停止、なんていうとんでもない事態を招くことを考えれば安いものだ。IRを提出しないので与信結果が《Eランク》なんていうメーカーと競合したこともあるが、これはその企業姿勢からして論外だ。自分たちの情報を詳らかに公開することは企業として果たすべき当然の義務である。それすら出来ないメーカーが超社会システムである電子カルテのようなものを作り、販売するなどあってはならないことだと思う。しかし、医療機関は意外と平気でそうしたメーカーを検討の俎上にあげてしまうことに驚く。企業においては、取引口座を開設する際は与信情報に基づき、その企業の信頼性を評価し、社内承認を取るという厳粛な手続きを必要とする。まして自社の基幹システムのメーカー選定ともなれば、なおさら慎重に判断することになるだろう。なぜなら、そこには選定責任が生ずる訳で、万が一問題が発生した場合の対応方法と責任の所在を明確に決めておくためにも重要なことだからだ。これは医療機関においても同様のことだろうし、医療サービスに直接関わる情報を取り扱う電子カルテシステムの選定責任は、医療機関が想像する以上に重大なものだ。いずれにせよ検討メーカーの選定段階から継続性に関する明確な評価を必ず行い、出来得る限りリスクを回避することをお勧めする。重要なポイントは、評価対象者は販売窓口業者ではなく、その製品を実際に開発しているメーカーという点だ。そのためにまずこう問うべきだ。このシステムの開発元はどこですかと。
次に、事業の継続性についてだが、簡単に言うと、そのメーカーがその事業(今回の場合は、精神科電子カルテ事業)を継続し続けられる力がどの程度あるのかを評価するということだ。そのメーカーの企業与信が安心できるからといって、その事業が継続されるとは限らない。当世利益の出ない事業からの撤退は日常茶飯事であり、電子カルテも例外ではない。事実、1999年に電子カルテが認可された直後は星の数ほど電子カルテメーカーが出現した。その当時のホスピタルショーの会場は数多の電子カルテメーカーで溢れかえっていたものだ。ところがどうだろう。あっという間に電子カルテメーカーは淘汰されてしまった。大手と言われる企業であっても、自社開発の取りやめや電子カルテ事業自体からの撤退が相次いだ。電子カルテ事業とは、製品開発、品質の維持・向上、稼働後サポート等に膨大な工数を必要とする。つまり、多額のコストを要するということだ。ユーザーが満足できる製品・サービスを提供し続けるためには、販売実績を堅実に伸ばし、スタッフ・設備の充実・増強に投資するための利益を確保し続けなければならず、それができなければ事業自体を高いレベルで継続することなどできない。
では、何の情報から事業の継続性を評価すればよいのだろう。そのメーカーが単一事業の企業であれば、前述の通り与信情報を利用すればいい。しかし、事業が多角化している場合は、その事業単位での利益率等の詳細な財務状況を知りたいところだが、わかりやすく事業の継続性を推し量れるものが、《市場占有率=シェア》である。ご存知の通り、市場シェアとはその企業の製品が市場全体で占める割合である。シェアとは、その市場における企業の地位を意味するものであり、その市場で販売する力を示すものであり、未来の市場動向を占う重要な材料である。つまり、市場シェアが高ければ高いほど、その事業を継続するために必要な経営リソースを有していると言っても過言ではないだろう。従って、業者選定においては必ず各メーカーの導入実績一覧表を集めて、正確な市場シェアに関する情報を把握すべきである。また、提出依頼にあたっては下記の点についての明示を徹底させるべきだろう。
⑴アプリケーションの製品名称に関する明記
⑵アプリケーションのバージョンに関する明記
⑶稼働時期に関する明記
⑷適用形態(電子カルテorオーダリング)に関する明記
⑸医療機関名に関する明記
まず、製品名称の明記は必須だ。なぜなら業者によっては、電子カルテ以外の製品(医事会計システムや部門システム等)の導入実績を含めてくる場合があるからだ。アプリケーションのバージョンも明記させることが必要だろう。後述するが、バージョンアップ履歴こそがその製品の継続性を評価する上で重要な情報だからだ。稼働時期についてもそのメーカーのサポート実績を評価する上で必要な情報だろう。また、純然たる《電子カルテ》としての導入実績を知るためには適用形態を記載させておくことも大切だ。
医療機関名の記載は絶対だろう。でなければ導入実績の真偽の程を確かめようがないからだ。それとユーザー名があれば、これまでのサポート状況について、使っている医療機関に直接問い合わせて確認することもできる。
ともあれ上記要求項目に対して、メーカー各社がどのような対応をするのかを見れば、企業姿勢を伺い知ることもできる。というのも医療機関名の明示を出し渋るメーカーが案外多いからだ。どのメーカーも自社ユーザーの評価に対しては酷く緊張するものだ。ユーザー名を明らかにすれば、ネガティブな情報が伝わる可能性もあるため、出来れば公開を避けたいというのが本音だろう。しかし、前述のIRのことと同様に、自社にとって都合の良いことも悪いこともオープンにした上で、真摯に顧客の評価を受け止めることこそが、メーカーとしてとるべき姿勢ではないだろうか。ひとつのことを誤魔化す企業に、電子カルテという巨大なシステムを提供するメーカーに求められる弛まない改善の積み重ねを永く続けていくことなどきないのだ。

継続性の評価においてもうひとつ大切なことがある。それは、
・製品の継続性
に関する評価だ。つまり、購入した製品に関するサポートを受け続け、使い続けることができるのかどうかということだ。実はこの評価が最も難しい。というのも、製品の販売終了によるサポート終了なんてことは珍しくもなんともない。例えば、某大手コンピュータメーカーが1999年から発売していた電子カルテの販売終了が決まり、期限付きで製品サポートも打ち切られることとなったが、後継製品も発売されないため、診療データの一部しか継承できない別製品への買い直しを要求されたなんていうことがあった。使用しているユーザーにとって、こうしたメーカーの対応は無責任で迷惑な話だ。しかし、そのメーカーの事業戦略は、自社ユーザーに対して6~7年というサイクルで新製品を販売して利益を得る(ライフサイクルマネジメントとも呼ぶが)ことなのだから、新製品へのリプレースは当然のことなのだろう。しかし、大手メーカーですら、診療データの継承についてはこの程度の認識しかされていないことに驚かされる。なぜこうした問題が明るみにならないのか不思議だが、恐らくユーザー側が泣き寝入りせざるを得ない状況となっているのだろう。
もうひとつある事例をご紹介しよう。
精神科電子カルテメーカーのA社(実際には開発していないのでディーラーか)だが、市場参入してから7年間の間に取り扱い製品を2回も変更しており、昨年から販売開始している製品が3つ目だ。問題なのは、同一製品名を使い、全く異なる製品をバージョンアップだと偽って販売している点だ。もう少し詳しく説明すると、一番最初はB社の製品をODM契約によって自社製品としてリリースし、なんらかの理由で販売終了。今度はC社の製品をODM契約してリリース。売れ行きが悪いので販売終了し、昨年からはD社の製品をODM契約でリリースした。つまり、異なるメーカーが開発した異なる製品を自社の同一製品名称で販売し、製品の違いをバージョンアップだと説明しているのだ。しかし、異なる製品なのでデータの互換性など全くないし、機能も全く違えば、ユーザーインタフェースも全く違う訳だ。はっきり言わせてもらおう。こうなると物売り営業のレベルを遥かに超えて詐欺師まがいの商売だ。ちなみにこのA社だが、導入実績一覧表は絶対に提出しない。
では、製品の継続性については何を評価すればよいのだろうか。まずはその製品のバージョンアップ履歴を提出させてみたらどうだろうか。いつ、どういった機能をどのバージョンで提供しているのか、最低過去5年間を遡って提示するように依頼してみると面白い。製品管理を真面目に取り組んでいるメーカーは正確な内容をすぐさま提示してくるだろう。逆に、資料提示できなかったり、時間を要する場合は、製品管理が十分行われていない可能性が極めて高い。製品管理が不十分な電子カルテは、一律のバージョンアップ等まずできないし、そのうちシステムサポートも行き届かなくなるはずだ。そのことが理由となって製品そのものを作り替えるということは十分考えられるし、実際にある話だ。
それと、メーカーによっては、顧客ニーズにあわせて自由にカスタマイズできることを《売り》にしている場合があるが、これが非常に危ない。個別要望に対応してシステム的改造を頻回に実施するということは、例えば30施設に導入すると30種類のシステムが出来上がってしまうということだ。これでは一律のバージョンアップは不可能なので、定期的な新機能提供は行われない。ということは、稼働後に出てくる要望事項については全て有償によるカスタマイズ対応となるわけだから、ユーザー側は年度予算の中にカスタマイズコストを必ず組み込んでおく必要があるだろう。しかし、益々厳しくなる病院経営を考えれば、官公立病院以外でITに対して多額の出費が可能な医療機関がいかほどあるのか疑問だ。また、個別カスタマイズを繰り返す電子カルテの製品管理は非常に難しく、サポートも必ず属人化するだろう。増大していくシステム管理工数とサポート品質の劣化という負担を、メーカー自身が背負えなくなるということも十分考えられる。
いずれにせよ、その製品のサポート期間をメーカーに確認し、明確な回答を得ておくことは最低限必要だろうし、これまでのサポート実績を確認して、製品の継続性を推し量ることが重要だ。また、製品サポートが終了して新システムにリプレースをすることが前提の場合には、旧システムの診療データを電子カルテの3原則に則って、新システムに速やかに移行できるのかどうかを確認し、必要とあらば覚書を交わすくらいの取り組みは必要ではないだろうか。先日、某メーカーが自社製品のバージョンアップには一切コストがかからないと説明してきたとの話を耳にしたため、保守契約の規約に盛り込んでもらったらどうですかと進言したところ、そのメーカーは前言を撤回し、有償だと言ってきたそうだ。自分の身は自分で守るという当事者意識がなければリスクは回避できないというよい事例だ。

ここまで書いてきたことが、私が電子カルテの選定において評価すべき本質的な部分だと考える。しかし、現在の電子カルテ商談における実態は全く違う。漠然とした操作に関する主観的評価とイニシャルコストの多寡で意思決定する傾向が見受けられる。申し訳ないが、どこの製品でも余程のことがない限り本稼働には漕ぎ着けられる。操作性だって結局は慣れだ。以前こういうことがあった。臨床検査システムを販売した際に、検査結果の表示方法が現状と異なるということで現場スタッフの方から相当厳しくクレームを受けたが、現状通りの表示には対応できず、我慢して使って頂くこととした。しかしその6年後のことだ。検査システムのリニューアルが決まり、新しい検査システムでは旧システム同様の表示に対応できることを説明したところ、その対応は必要無いと言われた。結局、操作性とはそういうものではないだろうか。コスト評価についても疑問がある。イニシャルコスト以上に掛かるのは稼働後の運用コストだ。システム保守料はもちろんのこと、前述の通り6~7年おきに全面的な買い直しが必要かもしれない。製品によってはカスタマイズ費用が掛かる場合もある。従って、コストについては、10年~15年といった長いスパンで積算されたものを評価するべきだろう。電子カルテシステムとは、一度使い始めたら止める訳にはいかない。だからこそ、その継続性を厳しく評価し、蓄積されるデータ資産を永続的に運用できるかどうかを重要視するべきだ。そのためには電子カルテシステムの選定責任の所在を明確にするとともに、細かく評価のエビデンスを押さえつつ、あらゆるリスクを考慮した電子カルテ検討をしていくべきではないだろうか。電子カルテシステムとは医療機関が使う道具ではあるが、その情報は患者に帰属するものだ。明日から使えないでは困るのだ。今のところ、ここまで書いたリスクは医療機関自身の手で回避していくしかないのだから。
藤川です。

最近、仕事のやり方について部下と語り合いながら考えることは、『選ばれたい』という「念」が、仕事人にとって如何に必要なメンタリティなのかということです。

まず、選ばれたい人は常に情報収集を怠らず、いつも能動的に考えてますから、自分の中に沸々と沸き上がる思考を誰かに確認したくてしょうがないものです。だから、一生懸命発信する訳です。これどう?これどう?ってやるんです。そのことで思考は削られて、磨かれて、真理に近づいて腑に落ちるんです。その瞬間の喜びとか、楽しさは、何ものにも代え難いものです。そうした繰り返しこそが実践的な学びの機会となりますし、そうした地道な積み重ねが自分の価値を高めることに繋がります。
そもそも選ばれたい人は自分が選ばれる理由をずっと模索していますから、自分の価値に無頓着ではいられません。だから、自分自身の差別化についてそれはもう必死に取り組みますし、己の価値を高めることには恐ろしくどん欲です。変化なき停滞は恐怖でしかありませんから、自己革新にも熱心です。つまり、選ばれたい人は、高い当事者意識と自己責任をごく当たり前に認識している訳です。
反対に、選ばれたいという欲望、選ばれなければならないという危機感を持たない人は全てが「受け身」です。他人からの指示が全ての行動起点ですから、頭脳労働はできない傾向にあります。危機感がありませんから、疑問も課題意識も生まれません。従って、工夫や改善といった向上のためのアクションに移すこともあり得ません。あるのは愚鈍で単調な業務の繰り返しですから、他人の評価も得られず、ねじれた被害者意識による不満が溜まるばかりです。そして自己正当化と他罰化が連綿と続いていく訳です。これほど不幸なことがあるでしょうか?これらのことは個人の意識の持ち方によって決まってしまう事なのです。

僕が就職してからの3年間は、甘ったれた学生気分からなかなか脱する事ができず、とんでもない仕事ぶりでしたから、全くお恥ずかしい限りです。ただそれでも心のどこかに「選ばれたい」という強烈な欲望が横たわっていました。それが我が師との幸運な出会いによって、潜在的にあった欲望に火が付いたのでしょう、このままではいたくないという危機感に繋がり、自己革新への取り組みが始まった訳です。
最初は上司に選ばれようと思い、次に会社に選ばれたくなり、いつしか顧客に選ばれることこそが仕事の本質だと考えるようになりました。
そしてそれが会社を辞めて起業するきっかけとなりました。師との出会いが僕にチャンスの扉を開けさせてくれた訳ですから、足を向けて寝られませんね。
そんな僕が今目指していることは、自分が経営陣を務める会社が顧客に選ばれ続けるにはどうするか?ということです。これは個人ではなし得ないことであり、組織があってこそ可能となることです。しかし、これが非常に難しい。選ばれ続ける強い組織を作るためには、選ばれたいと願い、取り組む事の出来る人材を育成し、集めていくことが必要であり、一朝一夕に実現できることではありません。でもだからこそ、地道に伝えていくしかないと考えています。選ばれるために僕らが目指すべきところ、その為に今何をしなければならないのかを僕自身が発信し続けなければなりません。
「オレの背中を見て考えろ!!」
なんていう浪花節では、正しく伝わりませんし、何の理解も深まりません。
Googleの副社長、ライナス・アプソンの言葉だったでしょうか。。。
「マネジメントの役割はよい土を作り、水と日光を十分に与えること。そしてよい芽が出たら見逃さずに伸ばすことが重要」
僕は経営者でありつつ、未だ一営業であり、求められるものも「受注・売上」といった成果であることは間違いありません。ですから、ついついプレイヤーとして部下に接してしまいがちです。しかし、マネージャーの端くれとして部下の育成方法についても試行錯誤しながら、強い組織作りを目指そうと考えています。