「鼻の下伸びてんぞノブオ」アカシが言った。
不良と海。
それはまるでガムを食べながらベビースターを食べるような、
豚に真珠のような、
組み合わせとしては完全に合わない絵だ。
急にノブオが「海に行かないか」なんて言い出したものだから、アカシのこてっちゃんも、これは裏があると読んだ。
案の定、ノブオの鼻の下は伸びていた。
アカシの言葉が図星だったのか、ノブオはため息をつくように言った。
「あのなぁ、夏だってのに毎日毎日野郎だけで集まってよぉ、タバコふかしてダリィダリィ言ってよぉ、たまにゃ女っ気のあることしようぜって言ってんだよコラ」
ノブオはそう言うと、アカシの部屋の窓を開けた。
部屋は煙で真っ白だった。
不良が華々しく居られるのは集会や喧嘩の時。
それ以外の日常にスポットを当てると、お世辞にも格好いいとは言いがたい面がある。
「お前ら二人で言って来いよ。小鉄、ノブオ」アカシが言った。
「俺に振るんじゃねぇよ。達也とワン公だっているじゃん」こてっちゃんがだるそうに答えた。
「海かぁ・・・」
寝ころんだアカシは天井を眺めながらつぶやいた。
「せっかくだしよぉ、みんなで行こうぜ。小鉄もその筋肉でナンパ出来るんじゃねぇか?」ノブオが言った。
「ばぁか。俺の筋肉はムカつく野郎をぶっ叩く筋肉なんだよ」
こてっちゃんはそう言い返しつつ、鼻穴が膨らんでいる。
「俺らはいいや」俺がそう言うと、ワン公は目で「行かないの?」と訴えかけてきた。
ワン公はむっつりスケベだったから、ノブオの案に乗り気だった。
俺はアカシが行かないのなら行く気にはなれなかった。
「フウキさんなんてよぉ、海でナンパしてその日に男になったってよ」ノブオが言った。
フウキとは近所に住むアカシたちの先輩だ。
海でいい思いをしたフウキの自慢話を聞かされたノブオは、乗り遅れてなるものかとアカシを海に誘ったのだろう。
そこからノブオは延々とフウキの、少しもった盛られた話を俺たちに言葉巧みに説明した。
上手く乗せられたのは案の定こてっちゃんだった。
「日焼けしたら筋肉も見栄えが良くなるかな」こてっちゃんが言った。
素直にナンパしたいと言えないのがこてっちゃんという男だった。
頭の中も筋肉だ。
「腹減った」アカシはそう言うと、カップヌードルが大量に入れてある段ボールを部屋に持ってきた。
「え、行く気なのかよ!?」俺は心の中で驚いた。
アカシとカップヌードルといえば、俺たちの中では戦の前の腹ごしらえの意味合いがあったからだ。(※小説チキン要参照)
~つづく~
井口達也
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