誰もが喧嘩が終わったと思ったその時、アカシは倒れたこてっちゃんに馬乗りになった。




そして、そのまま一発、二発と拳を振り下ろし続けた。




それを見たノブオは二人に駆け寄った。




「終わりだ終わり!もう止めとけアカシ!」




ノブオはアカシに体当たりをして、殴るのを静止した。




それでもアカシはノブオを振り払って殴り続けた。




俺は、動けなかった。




アカシは無表情で殴り続けている。




これ以上は危ないと分かっていても、アカシが怖くて足が前に出なかった。




もう誰も止められない。




そう思った時、こてっちゃんの体に誰かが覆いかぶさった。




土手で見ていたはずのマユだった。




そして、起き上がったノブオがアカシの腕にしがみついて静止した。




鼓動が早くなりすぎて俺は苦しくなってきた。




「アカシ!」




ようやく声を振り絞って叫ぶと、少しだけ心臓が楽になった。




我に返ったのか、アカシは振り上げた拳を、ノブオの体ごとゆっくりと下ろした。




俺はアカシに駆け寄った。




アカシは「ノブオ」と言った。




必死に腕をおさえていたノブオは力を抜いて、大きく息を吐いた。




ほっとした様子だった。




アカシは立ち上がると、「手当て、してやれ」とマユに言った。




続けて何か言い掛けたが、アカシは何も言わずに背中を向けた。




そして、そのまま歩いて立ち去ってしまった。




「アカシ!」




俺の言葉にアカシは腕を軽く挙げただけだった。




振り向きはしなかった。




俺は一人でアカシを追いかけた。




ただ、声をかけていいのか悪いのか分からない。




どういう反応が返って来るか怖かった。




アカシの狂気を見た気がしたし、仲間をここまでやってしまった事を、アカシは絶対に考え込んでいるはずだ。




どういう気持ちなんだろうか。




俺の知っているアカシならば、自分を責めているに違いなかった。




俺はアカシの数メートル後ろを、ただただついて行くしかなかった。




~つづく~




井口達也


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