アカシは俺の声には反応しなかった。




しかし、一瞬だが土手で二人のタイマンを見ているマユに目をやった気がした。




きっと、覚悟を決めてこの場所に来たはずだったが、さすがにこてっちゃんが惚れている女の前でこてっちゃんを沈める事にはためらいが生じてしまったのだと思った。




「アカシよぉ、テメェがどんなんだろうと関係ねぇ。俺相手に手を抜くようなヤツはダチでもなんでもねぇ。バカにすんじゃねぇ」





こてっちゃんはそう言うと、今度はゆっくりとアカシに近付き、思い切りアカシの腹に前蹴りを入れた。




そして、アカシの顔が下がるやいなや、拳で顔面を殴り上げた。




見ている俺まで顔が歪んだ。




アカシじゃなければこれで勝負アリの一発だ。




俺はもう一度叫んだ。




「アカシ!」




するとようやくアカシは俺を向いた。




アカシの目を見て、俺は鳥肌が立ってしまった。




無表情だが、目の奥で俺を睨みつけている気がした。




怖くて、俺はツバを飲み込んだ。




口の中がカラカラになっていた。




アカシは血の混じったツバを吐くと、こてっちゃんを殴った。




こてっちゃんは首をゴキゴキと鳴らし、肩を回した。




「それでいんだよバカヤロウ」




こてっちゃんはそう言うとアカシを殴り返した。




骨と肉がガチガチとぶつかり合う音だけが鳴り続け、俺は二人の喧嘩に見とれてしまっていた。




喉が渇く。




もう飲み込むツバも無い。




そして、こてっちゃんは仰向けに倒れた。




終わった…。




これで良かったのか悪かったのか、分からない。




それでも喧嘩は終わった。




しかし、そう思っていたのは見物人だけだった。




~つづく~




井口達也


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