こてっちゃんは土手に単車を止め、アカシに向かって歩き始めた。
一緒にやってきたマユは単車から下りてその場でタバコに火をつけた。
高みの見物といったような雰囲気だ。
何故こてっちゃんと一緒に来たのかは分からないが、大方の予想はつく。
アカシに勝つところをマユに見せ付けたいのだろう。
俺はアカシとこてっちゃんのタイマンに水を差された気分になったが、俺とワン公もタイマンの邪魔になりかねないのにこの場にいる。
全てを静かに見守るしかなかった。
ふとアカシに目をやったが、アカシは動じた様子は無かった。
首を傾げたままこてっちゃんをじっと見据えていた。
ノブオは、あからさまに嫌な顔をしていた。
何故女を連れてきたんだと言いたいのだろう。
そんな事はおかまいなしといった顔のこてっちゃんは、どんどんアカシに近付いてくる。
俺とワン公は10メートルほど離れた松の木の下で息を飲んでいた。
こてっちゃんはアカシの手前5メートルほどで立ち止まった。
アカシ、こてっちゃん、ノブオが丁度正三角形で立っている。
生唾を飲み込む音が自分の耳の中で妙に大きく聞こえる。
しかし静かな時間は長くは続かなかった。
こてっちゃんが何か言おうとした時、アカシが口を開いた。
「何でもいいから、さっさとかかって来いよ」
アカシはそう言ってタバコを踏み消した。
「上等だコラ」
こてっちゃんはアカシに向かって走り出した。
～つづく～
井口達也
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