「よぉ、達也」




単車にまたがった美咲は軽く手を挙げて言った。





俺も軽く手を挙げた。




美咲はエンジンを止めると、「なーにしてんだよ」と言った。




「美咲こそ何してんだよ」




「俺か?近くまできたから寄っただけだよ」




相変わらず自分の事を俺と言う女だ。




スタンドの作業服の上にドカジャンを羽織っており、顔だけ見なければ完全に男だ。




俺を街で見かけると単車に乗せて軽くツーリングに連れて行ってくれたり、兄のような、姉のような不思議な存在だ。




「ウス」




アカシが小さく会釈して外に出てきた。




「よぉ。こんな時間まで寝てんのかよお前」




「ウス」アカシはそう言って苦笑いした。




美咲の前ではアカシのオーラも鳴りを潜める。




美咲は、俺にとっては兄のような姉のような存在でも、アカシ達愚連隊からしたら紛れもない総長代行で、絶対的な存在だった。




「どうしたんスか」アカシが言った。




「いや、そこまで来たからさ。寄っただけ」美咲が言った。




美咲は何か特別な事を言う訳でもなく、ただアカシの眼を見据えた。




ガキながらに、美咲はこてっちゃんとアカシとのタイマンに気がついているんだと思った。




「そうッスか。お茶入れるんで上がってください」アカシが言った。




アカシがそう言うと、美咲はドカジャンから缶コーヒーを取り出し、アカシと俺に投げ渡した。




「達也ぁ、お前コーヒー飲めるかぁ?」美咲が言った。




「バカにすんな。っていうかこれ自分の分だろ?」




「いいから飲めよ」




美咲はアカシと少し話しがあってきたのだろう。




俺が邪魔をしてしまっているような気分になった。




アカシとこてっちゃんが揉めるのは、原因が何であれ、チームの内輪揉めと同じ。




総長代行として小さな揉め事にも気を配っていないといけないのだろう。




美咲にしたら、アカシもこてっちゃんも弟みたいなもので、喧嘩にいちいち口出しなんてするするほど野暮でもない。




しかし、心配なのだろう。




それにしてもタイマンの原因はアカシに対するこてっちゃんの嫉妬。




しかも女がらみ。




俺からしたらくだらなかった。




俺は事の成り行きを洗いざらい美咲に打ち明けたくなった。




そうでもしないとこの場の居心地の悪さを打開出来そうになかった。




「じゃ、行くわ」




美咲はそう言ってエンジンをかけた。




アカシは美咲に見据えられたまま、何も言わずにいた。




アカシも美咲がここに現れた理由を感じていたのだろう。




アカシは美咲によって無言のプレッシャーをかけられた。




これからどう動くかはアカシ次第だが、おれが来てから気の抜けた浮かない顔をしていたアカシの顔が、更に曇っていた。




迷っているように見えた気持ちに一層の迷いが生じたのは確かだった。



~つづく~




井口達也



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