アカシとこてっちゃんのタイマン当日、アカシに抜け駆けされないように俺は昼にはアカシの家に行った。




インターホンを押しても応答が無いので勝手に中に入った。




アカシの部屋に行くと、アカシは参考書を顔に載せてベッドで寝ていた。




暇だったので転がっていたアカシのジッポーライターを、アカシの真似をしてカチャカチャといじり始めた。




一分ほど挑戦したが、アカシのようにトリッキーな点け方は出来なかった。




すると、ベッドから「くくく」と笑いを堪えたアカシの声がした。




ベッドを振り向くと、参考書はまだ顔に乗ったままだが、アカシは起きていた。




俺の下手なジッポさばきを聞いて眼を覚ましたのだろう。




そして本も顔からよせずに、「下手だなぁ」と言った。




聞かれていたと思うと恥ずかしくなり、「うるせー」とだけ答えた。




アカシは大きなアクビをして、ようやく本を横によせ、体を起こした。




「こてっちゃんとタイマンだっていうのに昼寝…余裕じゃん」俺が言った。




するとアカシは俺にジッポとタバコを取るように手で催促した。




俺がタバコセットを投げ渡すと、見事なジッポさばきでタバコに火をつけた。




「フゥ…。ねみぃ…」




マイペースなのか余裕の表れなのか、アカシは首をゆっくりと回してまたタバコを一吸いした。




まだまだ眠気眼をしている。




いつものオーラが感じられない。




素のアカシなのだろうが、いつも喧嘩の前となると、たかぶる気持ちを抑えきれないのか、要所要所に興奮が伝わってくる。




今日は全くその気配がない。




寝起きだからなのか。




おそらく、やりたくないのだろう。




「今日、勝つ?」




俺は何だか間が悪くなって、どうでもいい質問をしてしまった。




「ふあぁ…。ん?わかんねぇよ」




いつもなら「当然」と即答だった。




「あー、もしかして、お前も来るんか?」




「あったりめーじゃん」




「んんん…」




来るなと言われても行く俺だから、アカシはそれ以上は俺に聞かなかった。




来て欲しくない雰囲気は感じた。




「達也ぁ、冷蔵庫の中から適当に何か飲んでいいぞ。俺は、コーラ入ってっからそれでいいわ」




要するに、取ってこいということだ。




俺が台所に向かうと、家の外から単車の排気音が聞こえた。




そして、三度、クラクションが鳴った。




出て来いという合図のようなものだ。




聞き覚えのある、というか、よく知っている排気音。




美咲だ。




俺は玄関を開けた。




~つづく~




井口達也



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