レンの家はファミレスから20分ほどにあった。




住宅街から少し離れた郊外の中に建つ立派な一軒家だった。




四方を塀に囲まれた敷地の中に車庫があり、その二階がレンの部屋だった。




いわゆる「離れ」。




典型的な不良のたまり場になるには最高の条件が揃っていた。




車庫が車が二台楽に止められる幅があり、奥行きも中々だ。




中にはベンツが一台、奥にはトラクターとコンバインが止まっていた。




黒塗りのベンツだったのでヤクザかと思ったが、レンに聞くと、父親の趣味で、家は大きな農家だった。




ベンツの隣にレンの車を止め、車庫内にある階段を上って二階に上ると、広いスペースに農業用器具が所狭しと並んでおり、二階の一角にレンの部屋を増築したような感じだった。




部屋に入ると白を基調にした綺麗な部屋だった。




タバコの香りと女物の香水の香りが混ざって、下心をくすぐる。




「おー、広いね!」俺が言った。




聞くと、18畳あるとの事だった。




しかし俺の事なんてどうでもいいらしく、ソファの真ん中にあっちゃんを座らせ、女たちはその両サイドに腰掛けた。




俺は、ソファの前のガラステーブルにタバコを置き、ソファの対面にそのまま腰掛けた。




何なんだこの状況は。




俺の扱いのひどさ。




「冷蔵庫にビールあるから持ってきてー」太めのマイが俺に向かって言った。




ほほう…この狛江の狂犬をパシリに使う気だ。





心の中でブースブース!と叫ぶ俺。




しかしここは我慢。




敵の本陣への潜入に成功したら、あとは敵将を討つのみ。




今はじっと耐えて、形勢逆転の機を狙おう。




「お、いいねぇ」




なんて言って俺はパシリに徹した。




飲むという事は、もはや俺達は帰れないし、レン達も俺達を送ることは出来ない。




これはもはや、なるように、なる。




そう言い聞かせて俺はビールに口をつけた。




俺は盛り上げ役に徹し、女たちの酔いも大分回ってきた。




そして、酒が弱いあっちゃんはあくびを連発するようになってきた。




狙い通りだ。




ところが、暑がる女たちが薄着になってきたという時に、不吉としか言いようがない、下品なマフラー音が遠くから聞こえてきたのだった。



~つづく~




井口達也

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