カズキがあっちゃんの頭に手を置いた瞬間、あぁ…こいつ終わったなと思った。




あっちゃんは俺が食べていたハンバーグセットのフォークに手を伸ばしてきた。




その後の展開は考えるまでもなかったが、あっちゃんの手がフォークに掛かる前に、あっちゃんの隣に座っていたマイがカズキの手を掴み、「あっち行けって言ってんだろ!」と言った。




何邪魔しちゃってんだよこのブーちゃんが!と思った。




せっかくカズキの腕にフォークが刺さる場面を見られたのに…。




「レンに気があんならさ、アンタのそういうダッサい性格と前歯治してから出直して来いよ!」マイが声を荒げた。




カズキの行動は、俺達をナメているというより、嫉妬が原因だろう。




好きな女が他の男と遊んでいたら誰でも面白くない。




他に自分の男気を見せられる才能があればいいが、カズキは不器用な不良の一人だった。




表現力が乏しい。




力を見せる事が自己表現でもあった。




カズキもこの辺で立ち去ればいいものを、意地がどうしても邪魔をしてしまうらしい。




マイに掴まれた腕を振り払って、「汗クセー手で触るんじゃねーよ」と言った。




するとあっちゃんは大きなため息をついた。




「表、出よっか。おにーさん達」




あっちゃんはこの状況では暴れられないと判断したのだろう。




フォークで突き刺す寸前だったのが不発に終わり、冷静になっていた。




冷静になりながら、切れていた。




丹沢敦司の一番手がつけられないパターンだ。




「へぇ。オカマ野郎が俺と喧嘩出来んの?上等だわ。外出ろ」カズキが言った。




しかしレンも自分に気がある男のせいでトラブルになるのは避けたいのだろう。




「益々嫌いになるわ。気持ち悪いんだよアンタ」




レンはそう言うと立ち上がって「帰ろみんな」と続けた。




なるほど、それがいい。




喧嘩になりそうで忘れていたが、俺はレンとイイ事をする為にここにいるのだ。




怖いヤンキーお兄さんを相手にしている場合ではなかった。




「だね。帰ろ帰ろ」俺もレンに続いて立ち上がった。




あっちゃんもマイに促されて静かに立ち上がった。




珍しい。




こういう状況では仲間の言う事にすら耳を貸さないのに、どう考えてもかわいいとは思えないマイという女の言う事には素直に従ったのだった。




ガソリンに始まり、食事まで世話になった彼女達への礼儀だろうか。




丹沢敦司が「我慢」した瞬間だった。




「待てコラ!」カズキをはじめ、不良達が騒ぎ出す。




しかし俺達は振り返りもせずに会計を済まし、店を出た。




追って来る様子もなく、駐車場に並べて止めてある俺達の単車と車に向かって歩き始めた。




「なんかごめんね。あいつこの辺で結構バカで有名な奴でさ。危なかったよ」店を出たレンは俺達に謝った。




「いやー、助かったのはあっちだよ」俺が答えた。




「どゆこと?」レンが俺に聞いた。




その時だった。




俺の横を歩いていたあっちゃんが前のめりに倒れた。




~つづく~




井口達也

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