そこには何人かのいかつい風貌の男達が立っていた。



どこからどう見ても本職のヤクザ屋さん達だ。




それはそうだ。




ここはヤクザの事務所。




数秒俺達を凝視すると、ドアを開けた男が、「何だお前ら」と言った。




いきなり殴られるわけでもなく、怒鳴られるわけでもなく、静かな口調だった。




しかし目は全く笑っていない。




「さらっちゃったんで、返しに来ました。だから俺達の仲間も返してもらえませんか」福田先輩が言った。




バカがつくほどの正攻法だった。




押してだめなら引いてみろとは言われたが、ここまで堂々といくとは。




福田先輩は俺達がさらった男を男達に差し出した。




「いいッスか。返してもらえませんかね」福田先輩が言った。




男達の奥に居たスーツの男が、「まず、中入れお前等」と言った。




穏やかな口調だった。




話の分かる男だと感じた。




じゃあ、遠慮なく、と入りかけた俺を制止するように福田先輩がまた言った。




「いや、ここで人質交換できないッスかね」




するとドアを開けた男の目つきが変わった。




殴りかかる目だったが、手が出る前に福田先輩は少し大きな声で「ここで人質のー!交換をー!出来ないッスかねー!」と言った。




ここはマンション。




通路で大きな声を出すと近隣に響く。




組事務所からしたら迷惑な話だ。




福田先輩の行動を見て、部屋の中に俺達を入れようとした男が少し笑ったように見えた。




福田先輩は駆け引きが上手かった。




「あんちゃん、いい度胸してんな。おう、お前ら後ろ下がれ」男はそう言って若い衆を後ろに下げて、一人で前に出てきた。




そして福田先輩に向かって言った。




「君ら、愚連隊だろう?いいねぇ、最近の若い奴にしては根性座ってんな」




福田先輩はその言葉に無表情だ。




男は言葉を続けた。




「んでもなぁ、はいそうですかって、渡せないわな。お前等も突っ張ってんなら分かるだろう。お前等以上に俺らもメンツで生きてんだよ。手を出しちゃいけない相手もいる事位…分かってんな?」




静かな口調だったが、そう言った男の目は福田先輩を見据え、気迫で福田先輩を飲み込んでいた。




~つづく~



井口達也


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