「どしたぁ?」
福田先輩がとぼけた口調で言った。
村上は息を切らしていて言葉にならない。
俺はすぐにピンと来たが、村上には何も言って欲しくなかった。
どうせならこのまま息を切らしたままで居てくれたらいいのにと思ったが、残念ながら村上はすぐにこう言った。
「バレてる!」と。
ドリフのコントのように机から崩れ落ちそうになる一言だった。
するとこれまたタイミング悪く俺の親父が店に戻ってきた。
「おう、村上も来たんかよ。肉食え、肉」
親父はそう言って自分の財布をポケットから取り出した。
おごろうとしているのだろう。
しかし親父はもう金が無い。
「うるせーよ、おめー金持ってねーんだからさっさと帰れよ」
俺がそう言うと親父は金を使い切った事を思い出したようで、一人で噴出して笑った。
村上は空気を察して何も言わない。
まさか、自分達がヤクザに狙われているなんて事は親父には知られたくない。
「早く帰れコラ」俺が言った。
親父はどうやらタバコを忘れて取りに来たようだった。
「オウ、おめーら、まぁた悪い事考えてんじゃねーだろうな」親父が言った。
いや、考えているわけではない。
既に考えて、やってしまった挙句、今度は逆に狙われているのだ。
最高に面倒臭い状況になっていた。
まさに猫の手も、親父の手も借りたい位の危機的状況だった。
しかしここで泣きを入れるわけにはいかない。
親父を追い返した後、村上から話を聞いた。
村上の話しによると、俺と福田先輩が帰ってすぐに襲撃を受けたとの事だった。
村上の他数名は逃げたが、まんまと総長と何人かは連れて行かれてしまった事が分かった。
すぐに警察にでも届ければ話は済むのだろうが、ここで警察を頼れないのが不良だった。
プライドが高く、不良界で生きていくには警察に泣き寝入りは一番格好の悪い事だったのだ。
何がプライドかと言われたら分からない年頃の不良。
それでもそのよく分からないプライドで生きていた。
強みなのか弱みなのか分からないが、警察に行くという選択肢は真っ先に消えるのが暴走族の世界だった。
俺達は急がねばならなかった。
相手の組の事務所は分かっている。
もう、後戻りは出来ない事も。
井口達也
※一日一回のクリックが、映画化を実現させる。
諦めなかった奴等が、勝つ!→人気ブログランキング投票
- チキン「ドロップ」前夜の物語 12 (少年チャンピオン・コミックス)/秋田書店
- ¥453
- Amazon.co.jp
¥576
Amazon.co.jp
¥1,575
Amazon.co.jp
¥1,500
Amazon.co.jp
チキン「ドロップ」前夜の物語 1 (少年チャンピオン・コミックス)/秋田書店
¥440
Amazon.co.jp
¥560
Amazon.co.jp
¥1,260
Amazon.co.jp
※最後まで見てくれてありがとうございます。
押してもらえたら力になります→人気ブログランキング投票