誰も相手には顔を見られていないし、しばらく様子を見ようという事になった。




「じゃあ俺らは肉でも食って帰るから」福田先輩はそう言って俺と総長の家を出た。




仲間達は何となくまだ帰るのが不安なのか、もう少し時間を潰して帰るとの事だった。




俺は福田先輩を単車の後ろに乗せて焼肉ナユターに向かった。




俺がまだ鼻水を垂らしたクソガキだった頃から来ている狛江の焼肉屋だ。




福田先輩がおごってくれると言うのだ。




一体どういう風の吹き回しかと思ったが、今日一番暴れていたので相当機嫌が良いようだった。




ヤクザにバレて狙われるかもしれないなんていう事は全く気にもしていないようだ。




今日は体力だけでなく、珍しく神経も使ったので腹が減っていた。




福田先輩がおごってくれるなんて珍しかったので、「明日は雪でも降るな」なんて悪態をつきながらも俺は喜んでお供した。




しかし、俺のテンションはまた落ちてしまった。




ナユターののれんをくぐると、そこには親父と見知らぬ女がいた。




小綺麗な格好だが、派手な化粧をしている。




歳は四十代そこそこだろうか。




親父のスケだろう。




何処からどう見てもスナックのママのような感じの女だった。




俺は黙ってナユターのがらがらと鳴る戸を閉めた。




すると中からすぐに戸を開けられた。




親父だった。




「良いから食ってけよコノヤロウ」




酒臭く、酔っているようだ。




「うるせーよクソオヤジ。まぁた新しい女かよ。しかも地元でよ。母ちゃんに言うぞコラ」




すると親父は俺を睨みつけて、すぐにやらしい笑みを浮かべた。




「達也ぁ…いいからお前も飲め」




親父は俺が未成年だろうが関係なかった。




機嫌が良い時は酒を飲まそうとする親父だった。




すると後ろから、「いただきまーす」と言って福田先輩が俺を押しのけて店の中に入っていった。




親父と女は入ってすぐのテーブルに座っていたので、俺達は一応気を使って離れて座った。




「マスター!こいつらに肉とビール出してやってくれよ。おい、お前等、遠慮なく食え」




親父は女の手前、少々気が大きくなっているようだ。




「ウイッス」




福田先輩は満面の笑みだ。




親父はツレの女を俺に軽く紹介したが、俺は1ミリほど会釈した程度で、黙々と肉を食べた。




俺はつくづくこの極悪親父と似ていると思った。




俺もここ一番の時は女をこの店に連れてきていた。




そう思うと何だか自分にも腹が立ち、半ばヤケ食い状態だった。




「あの、おやっさん、全力で食っていいッスか」福田先輩が親父に向かって言った。




親父は勿論上機嫌だから二つ返事でオッケーを出した。




一時間後、結局親父の持ち金が足りなくなる位食べまくったおかげで、足が出た分は結局ツレの女が払ってくれた。




親父達は金を払うと、人差し指を口に当てて、「コレだぞ」と言い残して店を出て行った。




母ちゃんには黙っていろという事だろう。




「俺らもそろそろ帰るか」




福田先輩がほろ酔いでそう言ってタバコに火をつけたとほぼ同時に、ナユターの戸が勢い良く開いた。




血相を変えた村上だった。



~つづく~



井口達也



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