襲撃を翌日に控え、俺達は総長の家に移動し具体的な段取りを打ち合わせる事になった。
家の敷地内には作業小屋があり、その二階が総長の部屋になっていた。
不良共のたまり場になるにはこれ以上無いという環境だったが、部屋の中は綺麗に掃除が行き届いている。
総長は剃り込みが入ったパンチパーマのド不良。
ところが極度のマザコンで、総長の母も息子を溺愛しているバカ親子だった。
総長の部屋の掃除は母親が隅々まで毎日しているという。
本棚には綺麗にエロ本と単車の本が並べられており、壁には中森明菜のポスターが貼ってある。
およそ暴走族の総長の部屋だとは思えない部屋だ。
部屋はあっという間にタバコの煙が漂い、空気中に煙の層が出来上がった。
時計の針は夜の十時を回っていたが、総長の母親がカルピスを作って持ってきてくれた。
「達也ちゃん、うちの子にあまり悪い事させないように止めてあげてね」
そう言い残して母親は階段を下りていった。
子供じみた飲み物の差し入れと、息子を気遣う一言。
これはいつもの事だった。
最初のうちは総長も恥ずかしがったが、今となっては何も言わないし、仲間達も誰もつっこみはしなかった。
カルピスを飲み干すと、総長が切り出した。
「とりあえず、山ちゃんやった奴のマンションの前で待ち伏せすんべ。大体夜中に出かけるらしいからよ。マンション出てきた所でブッ叩いて、車に積んじまうべ。ガラ(身柄)さらうのは俺と達也とワン公な。車はうちのバン使っていいから、村上、お前運転しろよ。あと村上。網タイツ用意しろよ。俺持ってねーからよ」
「網タイツくれー自分で用意しろよ」
「お前が網タイツがいいって言ったんだろうがよ」
「俺は女から貰うからいいけどよ。お前らの分までは知らねーよ」
総長には女もいなけりゃ、買いに行くガラでもない。
入手は不可能だった。
総長は舌打ちをして、眉間にシワを寄せた。
俺は面倒だったのでマスクで済まそうと思っていたが、思わぬ事が起こった。
「ちょっと待ってろ」
総長はそう言い残して部屋を出て階段を下りていった。
そして五分ほどして戻ると、手には2枚の網タイツが握られていた。
皆無言で総長を見上げた。
総長は何も言わず、俺に向かって網タイツを放り投げた。
「母ちゃんの」
「何でお前の母ちゃんが網タイツなんて持ってんだよ」俺がつっこんだ。
「うるせーな。最近格好が派手なんだよ」
「ゲ。浮気でもしてんじゃねーの」村上が横槍を入れた。
村上がそう言うと、総長は即座に反応した。
「クォラ…村上…母ちゃんの事悪く言うとやっちまうぞコラ」
何はともあれ、これで網タイツは揃ってしまった。
しかし、総長の母親の網タイツを被ることには抵抗があった。
「とりあえず、被ってみろよ」村上が総長に向かっていった。
総長はマザコンなので何の抵抗もなく網タイツを被って見せた。
「丸分かり…だな」村上が呟くように言った。
網目が大きいので顔が丸分かりの状態になっていた。
仲間達の爆笑がさすがに効いたのか、総長はタイツを取ると床に投げつけた。
「やぽぱ、ストッキングにしようぜ」俺が言った。
無言の時間が3秒ほど続き、網タイツ作戦を提案した村上自身が、「そうだな」と言った。
何をしているわけでもなく、こうしてただバカな時間を過ごしているだけでも楽しかった。
結局元通り、ストッキングで襲撃という事で話がまとまり、その日は解散した。
そして襲撃当日。
夕方6時にまた俺達は総長の部屋に集まった。
俺が到着すると、何故かそこにはストッキングを持った福田先輩が居たのだった。
~つづく~
井口達也
※一日一回のクリックが、確実に映画化への上昇気流を巻き起こす!→人気ブログランキング投票
¥576
Amazon.co.jp
¥1,575
Amazon.co.jp
¥1,500
Amazon.co.jp
チキン「ドロップ」前夜の物語 1 (少年チャンピオン・コミックス)/秋田書店
¥440
Amazon.co.jp
¥560
Amazon.co.jp
¥1,260
Amazon.co.jp
※最後まで見てくれてありがとうございます。
押してもらえたら力になります→人気ブログランキング投票