~雨~第五話
自分の中で最高にキマっている顔を作って振り向いた。
その瞬間、脳天から爪先まで、雷に打たれたような衝撃が走った。
ヒロシが目を閉じて俺にキスしようとしていた。
目と鼻の先にヒロシのキス顔が迫っていたのだ。
俺はとっさに身をかわし、反射的に殴る体勢になった。
「待て待て待て!!冗談だよ達也」
どうやら俺をからかっただけだった。
優しい触り方だったので、女だと思ってしまった。
勘違いさせるつもりで、わざと女のような触り方をしたのだろう。
しかし、ヒロシに何故そんな余裕が?
今は勝負の途中なはず。
しかもフランケン状態のテルというハンデも背負っている。
「なんだよヒロシ。諦めたんかよ」
するとヒロシはニヤリと笑い、親指で自分の後ろを指差した。
指された方を見て、俺はまた衝撃を受けた。
そこにはなんと、テルと、テルを挟んで制服の可愛い子が二人立っていたのだ。
まさか…
嘘だろ?
しかし、現実だった。
なんと、ヒロシとテルはナンパに成功していたのだった。
「って事だからさ、達也、ごちそうさま~」
そう言って立ち去った。
テルなんか、ガタイの良さが気に入られたのか、ベタベタ触られて満面の笑みだった。
駅に取り残された俺は、壁に寄りかかって座り込んだ。
どっと疲れた気がした。
何をするわけでもなく、うつむき気味に座り込んでいた。
人々が行き交う足元だけが視界に入ってきた。
タバコを二、三本吸ったころだろうか。
いきなり目の前に傘が差し出された。
見上げるとミユキが立っていた。
~おしまい~
井口達也
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