こないだ、従業員のコウヘイと都内某所を歩いていたら、後ろの方から叫び声が聞こえた。
「エクスキューズミー!」
誰かが叫んでるんだろうと思って無視して歩き続けた。
まさか俺が呼ばれているとは思わなかったしな。
もう一度叫び声。
「エクスキューズミー!」
コウヘイが一瞬後ろを振り向いて、俺に言った。
「外国人がこっち追いかけてきてますよ」
「エックスがどうとか叫んでるな。エックスさんのファンかな?」
するともう一度大きな声で「エクスキューズミー!」と大きな声を出しながら近づいてきた。
少し必死な感じもした。
コウヘイが立ち止まって、「ちょっと静かにしてもらいましょうか」と眉間にシワを寄せた。
俺は立ち止まってこの外国人の話を聞く事にした。
俺達二人を前にして、その外国人は身振り手振りをしながら何やら話し始めた。
何を言ってるかさっぱり分からない。
コウヘイは頷いて聞きながら、時折英語で会話をしている。
コウヘイは実は英語の教員免許を持っているのだ。
「会長、彼、インド人らしいです。お金が無くて滞在している大宮まで戻れないから電車賃をかしてもらえませんかと言ってます」
「ふーん」
経験上、俺は外国に行く度に物乞いの類に遭遇しまくる。
これもきっとそういう感じなのだろうと思った。
でもここはオフィス街だし、日本だし、もしかしたら本当にお金が無いのかもと思った。
するとそのインド人は説明を続け、顔もとっても困っているんですオーラを出していた。
まるで神様にすがるような顔だった。
「会長、電車賃だけじゃなくて、実は朝から何も食べてないから何か恵んでもらえないかと聞いてます」
やはりただの物乞いか?
「仕事を探しに東京に出てきたけど、お金も無くなって戻れないみたいです」
たしかに手には地図のようなものを持っている。
「会長、どうします?」
「脅して金を取るカツアゲじゃなくて、同情させて金を取る新しいタイプのカツアゲだよなこれ」
「どうでしょうね。百円位渡せば納得するんじゃないですか?」
「バカヤロウ。んな小銭掴ませたらよぉ、後で井口達也はケチだったって言われんだろうがよ」
「相手はインド人なんで会長の事知らないッスよ」
「インドで井口達也はケチだって広まったらどうすんだよ」
「…じゃあ五千円位あげてくださいよ」
「んなにやれねーよ!今月のお小遣い無くなっちゃうよう!」
俺は三秒考えてコウヘイに言った。
「日本は好きか聞け」
「会長が聞いてくださいよ。ドゥユゥライクジャパン?ですよ」
「ドーユーライクジャペーン?」
「ジャパンだけめっちゃ発音いいッスね」
するとそのインド人は目を見開いて大振りなジェスチャーで何か言った。
「大好きです!日本で働きたくて来たんです!だそうです」
もはや悩む事はなかったよ。
それならしょうがねーなと思ってポケットに入っていた札と小銭を鷲掴みにしてそのインド人の上着のポケットに押し込んだ。
二万位あったかも。
びっくりしたのか、オーマイガー!みたいな顔をしていた。
しきりに頭を下げている。
「本当にありがとうございます!ありがとうございます!って言ってますよ。会長、かっけーッスよ」
「あったぼーよ」
俺達はその場を立ち去った。
日本が好きだと言われちゃ断れなかったよ。
インド良いね。
次はインド行こう。
「会長、今日は何食べます?」
俺は反射的にポケットに手を入れた。
残金を確認する為だ。
「寿司でも行きますか?」
俺は無言で首を振った。
「久々しゃぶしゃぶでもどうです?」
俺はまた首を振った。
そしてゆっくりポケットから手を抜いて、コウヘイの前で手のひらを広げた。
残金857円!!
札もまだ入ってると思ってたけど、手に乗っていたのはレシートだけだった。
インド人に見栄を張りすぎて、その夜、俺とコウヘイは富士そばになりましたとさ…。
俺のバカバカバカ!
本当に困っていた人なのか、物乞いか、新手のカツアゲか、それも知るよしはないが、気分は悪くないよ。
でも、皆も見栄を張るのはほどほどにな(笑)
(^井^)
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