『チキン 第二部 狛江愚連隊篇』序章①





十二月二十四日の夜、俺たちはガードレールに腰かけ、雲ひとつない空に向けて白い息を吐いていた。



底冷えのする寒い日だった。



ぼんやりと空を眺めていると、一瞬、大気が揺れるのを感じた。



気のせいかと思い明人に目をやると、明人は口元に笑みを浮かべたまま頷いた。



すると間もなく、遠くで雷が鳴っているかのような静かな振動が鼓膜に伝わってきた。



その音は幾重にも重なった単車の排気音だった。



俺は胸ポケットから煙草を取り出し、耳に神経を集中するために目を閉じた。



排気音が聞こえだしてから大きくなるまで、そう時間はかからなかった。



遠雷は地鳴りに変わりつつあった。



俺は首を傾げた。



音の厚さから考えて、予想を遥かに上まわる数のようだった。




それも何百台――。




「まさかな」と期待を込めて呟き、ゆっくりと目を開けた。



俺たち狛江愚連隊は街道を見下ろせる高台にいた。



「達也! 達也! 来た来た!」 



俺は、嬉しそうな太地の言葉に誘われて立ち上がり、地鳴りがする方向を見た。



先頭集団がヘッドライトで闇を切り裂きながら進んでくる。



集団の前を走っていた一般車は尻をつつかれて速度を上げ、逃げ遅れた車はウィンカーを出して左に寄ろうとするが、単車に接触しそうになってブレーキを踏み、やがて爆音と光の氾流に呑み込まれていった。




ヴォンボボボヴォンボボボバンボバンボ! ウォンオンオンオン! 




消音器を取り外した、いわゆる「直管」のマフラーの排気音が轟々と響き渡る。



低くて太い音や甲高くて抜けのいい音など、車種やエンジンの気筒数によって音色は様々だ。



クラッチの繊細な加減と巧みなアクセル捌きを組み合わせて、排気音で鉄腕アトムのテーマを奏でる者、ミュージックホーンでゴッドファーザーのテーマを大音量で流す者もいる。



俺たちのいるところから一〇〇メートルを切ると、音と音が無数に重なり合って胃袋を震わすほどの爆音になっていた。
 


嬉しいことに俺の予感は的中した。



これまで見た暴走族の集会の中でも圧倒的に巨大なものだった。




どいつが木戸蔵だぁ?




あまりの轟音に心の呟きすらかき消されそうだった。



そして集団が俺たちの眼下に差しかかった時、明人が俺の肩に手をまわした。



先頭の単車を指差しながら何か言ったが、聞こえるはずもなかった。



この集団、関東暴走連合を率いて真っ先に俺たちの眼下を通過したのは、カワサキのKH、通称「ケッチ」と呼ばれる単車に乗った男だった。




あいつか……。




白いタンクに旭日旗のペイント、白い三段シート。



ぞろぞろ連れやがって、ナンボのもんだよ。



俺は心の中で呟いて奥歯を噛んだ。



木戸蔵に対する嫉妬も少しあったかもしれない。



少数精鋭だという自負はあっても、俺たちは奴らとは比べ物にならない小さなチームだった。



俺は圧倒的な人数を束ねている木戸蔵という男に興味を抱いた。



巨大な敵を前にして燃えていた。



見下ろすと右も左も単車、単車、単車。



あちらこちらにそれぞれのチームの特攻旗が揺れている。



まさに大連合の集会だった。



荒々しい排気音が三六〇度支配してどこから鳴っているのかわからないほどだ。



ヘッドライトの閃光が連なって光の帯となり、まるで龍が大地に横たわっているようだ。



光の龍は闇の奥に向かって弧を描きながら伸びていった。



後続の単車はゆらゆらと蛇行運転を繰り返す。



その圧倒的な光と音のパレードは高台から見下ろす俺たちを惹きつけて動けなくしていた。



どれくらいの時間が過ぎただろうか。



最後尾の単車が乾いた爆音を響かせながら俺たちの前をやっと通過していった。




龍の尻尾を遠くに眺めながら、俺は興奮を抑えるために何度か深呼吸した。



そして寒さと武者震いで声が震えないように腹に力を入れながら言った。



~『チキン 第二部 狛江愚連隊篇』序章②に続く~





(^井^)


チキン第二部、

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