「さぁて帰るかぁ!」


「オウ!」


アカシの号令に

こてっちゃんとノブオが

大声で答えた。


勝負は

引き分けだったが、

まるで勝利の後の

雄叫びのように

その場に響いた。


俺は鳥肌が立った。


そしてバイクは

狛江に向かって

走り出した。


春といっても

まだ朝と夜は

冷え込む日が

続いていた。


そんな中でも、

後味の良さも

あったせいか

夜風が妙に

気持ちよかった。


鳥肌は

寒さのせいだったのかも

しれないが、

武者震いの時に

感じるものに近かった。


自分の中で

湧き上がる

抑えようのない興奮が

鼓動を早めた。


身体の中で

響く鼓動を聞きながら

俺は思った。



守られる人間から

守る人間になりたい。


アカシの背中を見ながら

その決意は

固くなっていった。


皆途中で解散して、

俺はアカシに

家まで送ってもらった。


「じゃあな達也。また明日な」


緊張の糸が緩んだのか、

石岡との喧嘩で負った

ダメージが大きいのか、

アカシは少し

疲れた顔をしていた。


「アカシ、大丈夫?」


「アゴがいてーよ」


「石岡強かった?」


アカシは

少しだけ考えて答えた。


「んー、

岩みてーな奴だったよ」


「石岡もアカシを

そう思ったんじゃねー?」


「だといいけどな」


「明日は何時に行けばいい?」


「早めに来た方が

勉強するっぽく思われて

いいんじゃねーか?」


「だな」


「昼過ぎ位でいいだろ」


「わかった」


「貸した革ジャン

着て来いよ?」


「うん」


「今日は遅くなったからよぉ、

俺んちで勉強してたって言えよ?」


「大丈夫だよ」


「よし、じゃあ明日な」


「うん、明日」


「あ、それとよぉ、

明日は

おっかねー先輩達

も多いからよぉ、

あんま目立つんじゃねーぞ?」


「脅すなって」


笑いながら

アカシはバイクを

発車させた。


今日の事で俺達の中に

ちょっとした

油断が生まれたのも

確かだった。


次回

夜桜が舞う(53)

へ続く