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井口達也ブログCHICKEN~ドロップ・ゼロ~-映画ドロップ


「遊んでんじゃねーよ
石岡ぁ。立て」

アカシがそう言うと
石岡は地面に
横たわりながら
笑い出した。

むっくりと
体を起こすと、
手鼻をかんだ。

鼻からは
ダラダラと
鼻血が流れていた。

「上等だよ沼田ぁ…」

アカシも石岡も
俺の想像を超えた
男達だった。

ここからは
お互いの拳を
避ける事なく殴りあった。

アカシの
拳の重さは知っている。

それをまともに
受け止めて
やり返す石岡。

次第に
周囲の罵声も無くなり、
相手方も俺たちも
じっと二人の喧嘩を
見つめていた。


二人に
魅せられていた。

骨と骨が
ぶつかり合う音だけが
何度も響き渡った。

どちらも
フラフラになりながら
意地になって
殴りあう姿を見ていたら、
この喧嘩にはもう
勝ちも負けも
無いんじゃないかと思った。


このまま永久に
殴り合うんじゃないかと
思う位に
二人は踏ん張り続けた。

二人を
ここまでさせるのは
何なのか。

男の意地もあるだろうが、
アカシを喧嘩に
追いやった原因は
俺にもある。

アカシが
ボロボロになっていく
様を見ていると
俺は自己嫌悪に陥った。


俺は自分の弱さが
改めて嫌になった。

俺も
アカシと同じステージに
肩を並べて立ちたい。

仲間が殴られるなら
俺が代わりに
その場所に立ちたい。

もっと強くなりたい。

もっと、もっと。

今すぐにでも。


お互いの頭を
鷲掴みにして
睨み合ったまま、
アカシと石岡は
殴り合うのを止めた。

恐らくもう手が
上がらないんだろう。

意識も
途絶える寸前なのか、
二人で髪を
掴み合いながらも、
支え合うように
フラフラと立っていた。


俺は自分への
悔しさと感動が
複雑に入り混じって、
気を緩めると
泣いてしまいそうだった。

そして
この二人の喧嘩に
水を差す事が起こった。


次回

夜桜が舞う(46)

へ続く