「立て」

いつもの
こてっちゃんからは
想像が出来ない位
怖い顔になっていた。

あまりの衝撃で
目の前に
星が飛んでいた。

「イテーよこてっちゃん!」

こてっちゃんは
目を閉じて
一つ大きく深呼吸をした。

息を吐き終わると
目を開けて、

「悪かったよ」

そう言って
倒れた俺に近寄り、
俺の肩に
手を置きながら
しゃがみこんだ。

俺が睨むと、
こてっちゃんの
こわばった顔が
スっと元の顔に戻った。

「アカシが殴んねーから
代わりに殴ったんだよ」

「なんだよそれ」

「達也なら分かるだろ?」

「…」

分かる。

言われなくても分かる。

アカシの気持ちを
素直に受け入れられない
俺がいた。

そして俺には
全てが足りてなかった。

心も。
力も。

今日の喧嘩に
行っていい道理は
どこにもなかった。

アカシの気持ちを
分かっていながら、
バイクの前に
立ち塞がった。

殴られて当然だった。


アカシが
話しかけてきた。

「達也ぁ、
おめーの分も
喧嘩してくっからよぉ、
待っててくれよな」

俺が謝ろうとした時に、
こてっちゃんが
立ち上がって言った。

「さぁて、
じゃあ達也は
アカシのケツ、
秀樹は
俺のケツに乗れよ」

「え?」

一瞬理解できなかった。


こてっちゃんは続けた。

「だからぁ、
早く乗れよ。
アカシ、いいだろ?」

そう言ってアカシの方を見た。

「はぁ!?」

アカシも状況を
理解出来ていなかった。

「殴っちまったからよぉ、
それのお詫びだよお詫び。
心配すんなってアカシ。
場所は工場跡地だろ?
隠れてりゃ大丈夫だろ」

「おめーよぉ…」

「俺はアカシを信じてるぜ。
ぜってー勝つってな。
こいつらにその姿
見せてやってくれや」

アカシは暫く考え込んだ。


舌打ちをして言った。

「しょうがねーなぁ…。
ただよぉ、
二人とも何があっても
今度はぜってー
出てくんなよ?
わかったな?
出てきたら絶交だかんな?」

俺は黙って頷いた。

こうして俺は
初めて族同士の喧嘩を
見る事になった。

引退集会
前日の夜だった。


次回

夜桜が舞う(38)

へ続く