そう言ってアカシは
親父達に
見えないように
素早くウィンクした。

このことを
言ってたのかと思って、
俺は平静を装って
返事をした。

「うん。春休みの宿題見てもらうんだよ」

我ながら
見事なとぼけっぷりだと
思った。

「春休みだし、
土曜辺り
達也をうちに
泊めてもいいッスか?」

「そりゃいいけどよぉ…」

親父はまだ
俺の口から
勉強という言葉が
出た事に
面食らっていた。

俺はその場から
逃げたい気持ちもあったし、
印象を良くしようと思って
普段は食べたら
そのままの食器を
珍しく流しに持って行った。


これが失敗だった。

普段やらない事は
するもんじゃない。

親父は俺の行動を見て
疑い始めたようだった。

「おめーらまた
ワルさすんじゃねーだろうな(笑)?」

俺は皿を落としそうになった。

アカシがすぐに返事をした。

「勉強です」

「んー…」

「春休みの宿題全部終わらせたいって言ってましたよ」

「んー…」

「俺がやらせます」

「…」

親父はタバコを
一吸いして答えた。

「アカシ君、勉強、だな?」

「勉強、です」

勉強という言葉が
妙に意味深に聞こえた。

強調すればする程
怪しかったが、
きっとアカシと親父は
口には出さないが、
何らかの同意が
得られたのかもしれない。

親父はきっと
何かあると感付いていたんだと思う。

俺は流しに食器を置き、
手を洗うフリをしながら
テーブルに背中を向けていた。

今振り向いたら
バレてしまいそうな気がした。

平静を装う自信がなかった。

次に出た
親父の言葉で、
俺は振り向かなくて
良かったと改めて思った。

「アカシ君、
怪我しないように勉強してくれな(笑)?」

アカシは
その言葉を聞いて
大笑いした。

そして一言、

「ハイ。任せて下さい」

そう答えて
身支度を始めた。

へ続く