「何処行くの?」

「いいから乗れ!」

そう言うと美咲は
俺が抱えたメットを取り、
俺の頭にドン!とかぶせた。

「ホラホラ!早く乗れよ!」

そう言って
俺をからかう美咲の顔は、
暴走族でも
男勝りの女でもない、
普通のかわいい少女だった。

ただ、
族仕様のバイクに目をやると、
すぐにこの人が確かに
愚連隊を引っ張ってるんだよなぁと思いだす。

そのギャップに
まだ俺は慣れていなかった。

言われるがままに
バイクに跨った。

原付以外のバイクに乗るのは
初めてだった。

乗る前は思わなかったが、
いざ乗ってみると
意外と高さがある事に気がついた。

足は地面に着かないし、
何処に掴まっていいか
分からなかったので、
不安定な状態の俺は
よろめいた。

「そこにステップあんだろ?
それとよぉ、
俺にしっかりしがみつけ」

俺は言われるがままに
ステップに足をかけた。

ただ、
しがみつけと言われても
こてっちゃんや信男に
しがみつくのとは訳が違う。

美咲は女だ。
妙な恥ずかしさもあって
俺はためらっていた。

後部シートは
反り上がっているので
そこに寄りかかった。

俗に言う
三段シートと呼ばれるものだった。

「達也ぁ…
恥ずかしがってんじゃねーよ(笑)
死にたくなかったら
俺にしがみつけ。
分かったな」

俺の心が
美咲に見透かされているようで
恥ずかしさを感じた。
動揺していた。

すると美咲が
俺の手を掴んで、
自分の腰に回した。

逆の手も
美咲の腹の方まで回され、
両手を握らされた。

「達也ぁ、
マジであぶねーんだよ。
掴まれ。いいな?」

俺はもう考えるのはやめた。
美咲に身を任せた。

「いくぜ!」

そういうと美咲は
いつものように
アクセルを吹かす事はせずに、
静かに発車させた。

へ続く