ヒロシが転校してくる話は一週間程前には俺達の耳には入っていた。


学校の中にはもう相手になる奴は居なかったから、転校生が来ると聞いて正直楽しみでしょうがなかったよ。

東京の学校は転校生が多い。

その都度俺達流の歓迎会をした。

転校生からしたら嬉しくない歓迎会だったろう。


転校してきたやつは片っ端から屋上に呼び出した。
喧嘩の相手にならなそうなやつはそのまま帰した。


当時はビーバップ全盛でつっぱった奴は溢れる程に居た。

町に出たら喧嘩の相手に困る事はなかったが、校内にはもう相手は居なかった。
サイドストーリー1


ヒロシが転校してきた日、早速森木に屋上に呼び出させた。

今でもヒロシの顔が鮮明に思い浮かぶよ。

強がってポケットに手を突っ込んでいたな。
俺はまた「ハズレ」だと思った。


強がっている人間の言動には自然さがない。

ヒロシは完全に不自然だった(笑)

顔も引きつっていた。


前の転校生にもさせたようにヒロシにも

「根性焼きをしてみろ」と言った。
大抵のやつはこの時点で喧嘩になるか帰ろうとする。


ヒロシは違った。


俺達の前で強がり通した。
ためらう事無くタバコの火を自分の手に押し付けた。


無意味な事と笑う奴もいるだろう。

バカな事だと思うやつもいるだろう。

その通りだ。意味の無いバカな事だ。

まして凄い事なんかでもない。褒められる所は無い。


ただ、根性焼きをした事のあるやつは分かるだろう?

痛いなんてもんじゃないよな(笑)

あれは強がりの勲章ってわけだ。


目の前の恐怖を乗り越えられるハートの強さを相手に見せられる手っ取り早い方法だった。


俺達はそんな一見無意味な事が大好きだった。


ヒロシが根性焼きをしなかったとしたら、俺達は仲間になっていただろうか。
答えは「イエス」だ。
ヒロシは他のやつとは違う目をしていた。


チキンな人間は強くなるチャンスがある。
それを掴もうとするかしないかは自分次第だ。
ヒロシはどういう手段であれ、強くなろうとしていたんだろう。
俺はヒロシに自分の姿を重ね合わせていたのかもしれないな。


俺は強そうな奴がいると燃えた。

向かってくる奴、勘にさわるやつは片っ端から喧嘩した。

ただこの時ヒロシは精一杯の強がりを見せたばかりで少し燃え尽きていた。


おもしれーやつが転校してきたなと思った。


皆でラーメンを食いに行った。
武者震いと表現していいのか分からないが、何か大きな事をやり遂げたり、興奮した後は手が震えるものだ。


ラーメンを食うヒロシの手は震えていた。

続き◆サイドストーリー第2話◆口は笑いの元