「たつやくんこっち来なよ」
「…」
ジャングルジムの上から声をかけられた。
他の生徒と比べて小さかった俺には、小学校の低いジャングルジムでも実際よりもずっと高く見えていた。

勇気を出して一歩登り始めると上から砂をかけられた。

その砂が目に入って足を滑らすように地面に尻餅をついた。
「キャハハハ」
「…」
小学校に入学したばかりの一学期。

そんな事は日常茶飯事になっていた。

いじめっこ軍団は毎日あの手この手で俺をからかってきたが、不思議と泣く事は無かった。

泣き出す勇気すら無かったのだろう。



C-sozai1


イジメが始まった原因は単純なことだった。
身体が小さく、童顔で髪もサラサラ。

まるで女みたいな俺は、どちらかというと女の子と話したりする事が多かった。


すぐにガキ大将みたいなやつから「オカマ」と名づけられ、男子生徒からのイジメの標的になった。

今思うと抵抗する術も勇気もないまさにチキン野郎だったってわけだ。


からかう側は大抵その対象の反応を見て楽しむものだろうが、俺は無抵抗、無反応だった。

きっとそれが良くなかったんだろう。

物が無くなったり無視されたりするイジメから直接的な打撃へとエスカレートしていった。



ある日、生傷が絶えない俺を見かねたのか、もっと男らしく育てたかったのか、親父が町の空手道場へと俺を連れて行った。


ブルースリーが大好きだった俺は、道場の雰囲気に圧倒されながらも、見よう見まねで突きや蹴りの練習しながら「これで俺もブルースリーになれる!」と本気で思い込んでいた。


好きこそ物の上手なれという言葉があるが、自然と空手にのめりこんで行ったよ。
強くなって俺をイジメた奴らに復讐しようなんて考えは浮かばなかった。

純粋にブルースリーになる為に通い続けた。

普段無口な俺にとっては腹から大声を出すのも気持ちよかった。
館長もよく俺を褒めてくれた。

世の中には褒められて伸びるタイプと叩かれて伸びるタイプがいるというが、俺は単純だったからか、褒められると嬉しくて練習に没頭した。


俺が空手を始めたことがあいつらの気に障ったのか、イジメはより陰湿になっていった。

ある日登校したら教室の椅子に画鋲がおいてあった。
「…」
無言で画鋲をつまみ上げ、壁に刺し、無言で席についた。
翌日も、その次の日も画鋲は置き続けられた。
そして四日目。

いつものように置かれた画鋲を取ろうとしたら椅子にマジックで何か書かれていた。
親父への文句だった。


何故か沸き起こる感情を抑える事が出来なかった。

続きは◆第2話◆「CHICKEN」で