旦那とは、
家が見つかるまで同じ家に住むことになった。
駅から遠く、坂の上にある家。
離婚を切り出したあとも置いてくれたのだから、
それだけでも優しかったのだと思う。
一ヶ月ほどだろうか。
私たちは同じ屋根の下で暮らしながら、
同じ職場へ通っていた。
もちろん、一緒に通勤することはない。
家でも職場でも顔を合わせる。
不思議な時間だった。
先にも書いたが、私の気持ちはもう離れていた。
だから結婚指輪をつけたまま生活するのが苦しかった。
仕事中もずっと身につけていた指輪を、私は外した。
それに最初に気づいたのは、職場の先輩だった。
旦那と付き合い始めてから、なぜか私にも優しくなった人。
それまでは誰からも恐れられていたような先輩だったのに、旦那と結婚してからは態度が一変し、プライベートで遊園地へ行くほどの仲になっていた。
その先輩が、私の左手を見るなり叫んだ。
「あんた! 指輪は?!」
周りにいた後輩たちにも聞こえる大声だった。
「ちょっと来い!」
そう言われて、隣の面談室へ連れて行かれる。
そして、
なぜ結婚指輪をしていないのか問い詰められた。
離婚することになったと説明しても、
先輩の怒りは収まらない。
「でもまだ離婚してないんでしょ?!
カップルが別れる別れないの話じゃないんだよ?!
形式的にも付けとかなきゃダメじゃないの?!」
私には理解できない理屈だった。
今日も相変わらず香水の匂いが強い。
体臭を隠そうとしているのか、
いつも同じ匂いがする。
私は今、旦那のことが好きではない。
それなのに、
なぜ結婚指輪をつけなければならないのだろう。
結婚したら必ず指輪をつけて仕事をする。
そんな規則はない。
付けたければ付ける。
ただ、それだけだ。
「私、もう好きじゃないので、
自分の気持ちに嘘をついてまで指輪は付けられません」
先輩は少し黙ったあと、
「ほう。それでいいんだね?」
と言った。
世界一ダサい台詞だと思った。
漫画でも聞かない。
アニメでも聞かない。
後にも先にも、あの言葉を聞いたのはあの日だけだ。
私は離婚しても、その職場で働き続けるつもりだった。
だから怖かった。
旦那ではない。
この先輩の方だ。
こういう話は、案外男性社員の方がさっぱりしている。
私は一応、上司に相談した。
上司は旦那と仲が良かったから
話しづらかったけれど、
離婚してもここで働きたいこと。
そして、先輩からの嫌がらせだけが怖いことを伝えた。
「何かあったら相談して」
そう言ってくれた。
でも現実は違った。
少しずつ、先輩の態度が変わる。
上司の態度も変わる。
気づけば、職場の空気そのものが変わっていた。
後輩たちは半々だった。
今まで通り接してくれる人もいた。
それだけが救いだった。
指輪を外しただけなのに。
離婚届はまだ出していないのに。
私は少しずつ、
あんなに大好きで仕事人間だった
元いた場所から
追い出されていくような気がしていた。
当時和ゴスにハマっていた私は
下駄で通勤していた





