ケンカした。いえ、正確にはケンカじゃなかった。
私が、ケンカにしたんだ。
週末のクラブ。だんだんと混雑してきた店内で、私たちは踊っていた。そんな中、彼女の態度に怒った私は、独りダンスフロアを後にした。
踊っている彼女は気付かない。
私、バカみたいだ。ここから立ち去りたい、そう思った。でも二人の荷物はコインロッカーの中。鍵は私が持っている。置いて行く訳にもいかない。
店の片隅に身を寄せ、酔い醒ましの烏龍茶を飲みながら、行き交う人の流れを眺めていた。
どれくらいの時間、そうしていただろう。フロアからロッカールームへ向かう彼女の後ろ姿が見えた。
「今どこ?」
LINEのポップアップ。怒っていた私はそれを既読にせず、しばらくして彼女の後を追った。
ロッカーの近くに彼女はいない。外に出た?どうやら少し遅く、入れ違いになってしまったみたいだ。
電話が鳴る。しばらく待って、電話に出た。
「今どこ~?」
彼女の声にぶっきらぼうに応える。けれど、投げやりな言葉は、周囲の音にかき消されて届かない。何度目かのやり取りで「ロッカーの前」と、少し声を荒げた私の声が届き、彼女が姿を見せた。
「いなくなんないでよ。連れていかれたかと思って心配した」
そんな言葉を無視して、互いの荷物を取り出し、出口に向かった。私は怒ってる、そういう態度。
さっきの居酒屋、清算が残ってたっけ。貸しは作りたくないから、お金を渡した。彼女は私の態度について、何も聞いてこない。
クラブハウスを出てバラバラに歩き出す二人。
今思えば、彼女も私に対して怒っていたはずだ。
「何で勝手にいなくなったの?荷物も預けてるのに」
「どうして何も言わないの」
一方私の方は、
「どうして何も聞かないの」
と更にヒートアップ。私を置いて、逃げるように先を歩いていく彼女にも怒っていた。
夜中の街を足早に歩く。真後ろを歩きたくなくて、道の反対側へ。車の流れを挟んで、追うように足早に歩いていく。遠くに見える彼女の姿。
ナンパ男が声をかけてくる。ウザい。ぶっきらぼうにあしらう。足は止めずに、そして何を言ったかも覚えていないけれど。
駐車場に着いた。彼女の姿はすでにない。もう私と話すつもりも無いようだ。でも、居場所は分かっている。彼女の車に向かった。
車の外に立つ私に気付いたのか、窓が開いた。
「びっくりしたぁ」
と、何事も無かったように話す彼女に向かって一言。
「逃げるの?」
きつい言葉を投げかけた。