麗しのナディーン、パリ篇 | S.H@IGTのブログ

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大阪府泉佐野市にある、ゲートタワーIGTクリニックの院長のブログ

私の知り合いに超美人がいて、漆黒の黒髪は豊かにあでやかにカーブし、目鼻立ちは神様の他には作れない完璧さだ。

大きな碧い瞳の奥には何があるのだろう。

滑らかな肌は絶妙な色の変化を示しながらうなじにつづいている。

千夜一夜物語の踊り子もかくありきと思われる。

 

ナディーンは、フランスの医療材料の会社に勤めていて、学会場で製品の説明が彼女の役目だ。

だが、彼女の話を聴く医者は彼女の姿かたちに見とれるばかりで、製品の内容がさっぱり頭に入らない。

でも、彼女の勧める製品は彼女が説明してくれたおかげで、すっかり気に気に入ってしまうので、彼女は立派に仕事を果たしている。

 

パリに出張した時、一人では寂しいでしょうからとホテルに迎えに来てくれた。

出張にこんなご褒美があってもいいのだろうか? 

薄暗いパリのプチレストラン、小さなテーブル席で向き合って座った。

ローソクの揺らめく優しい光の中に妖しい光を放ち続けるアラビアンナイトの美女が、手の届くところにいる。

私はこれから起こるかも知れないことを妄想し始め、それが起こった後、どんなことになるのかそんなことはもう全く考えていない。

 

彼女がお気に入りのワインをオーダーしてくれた。

もちろんテイスティングは彼女の役目だ。

薄いワイングラスと彼女の唇が触れ、所作のセクシーさに見とれるばかりである。

 

そのあと彼女の唇から予想外の言葉が、、、、

『このワイン、何かおかしい、、、ねえ、あなたもテイスティングして?』

私は、同じグラスから同じワインを飲む喜びを味わうことになった。

『良く分らんけど・・・』 そう私は答えたが、彼女はやはりおかしいと言う。

 

ウエイターは、おかしいはずはないと言い、幾度かの言葉の応酬があったが、彼女は引き下がらない。

こんな展開は彼女に似合わないし、今から始まる楽しい時間に水をさす忌々しき展開ではないか。。

とうとう、お店のシェフが出てきてシェフもテイスティングに参加し、かなりの言い合いになった。

数分の議論の末に.、とうとう彼女の主張が通り、新しいワインが出てきた。

議論に勝った誇らしげな彼女の表情も妖しく美しい。

もう一度テイスティングしたかどうかの記憶はない。

 

二人でテーブルをはさみ、美味しいフランス料理を食べながら、ナディーンの身の上話を色々と聞いた。

レバノンで生まれ、フランスで勉強し、いくつもの職を経験したこと。

お父さんは貿易関係の仕事でヨーロッパ中を飛び回っているらしい。

地中海を舞台に大活躍をしていたフェニキア人の子孫であることをとても誇りにしている。

彼女はいくつもの言葉を操り、生きていることが楽しくて仕方がない様子だ。

かなえたい夢を次々と語る。

 

彼女にとって自己は何物にも代えがたい大切なものに違いない。

その自己から生まれる主張は彼女の存在の証で、たとえワインの味一つでも、譲ることのできない大事なことなのだ。  

今、中東で起こっていることは長い歴史の中の一コマであり、ローマに滅ぼされたフェニキア人の歴史にまでも遡るはなしである。

彼らの争いの原点は宗教だけでなく、譲ることのできない自己の尊厳に関わることなのだとつくづく思う。

 

私は私の仕事の話をして、一度日本においでと誘い、今度は日本のレストランでお話しをしようと約束した。

 

凱旋門近くのプチホテルの玄関で、ハグして、互いの頬にキスして、そして彼女は去っていった。

 

パリにおける私の僥倖の夕べはこうして終わった。

 

自分の部屋に戻る私の心の中には、もう、未練がましい想いは何もない。

私は一人で泊まる素敵なプチホテルの古いエレベーターのボタンゆっくりと押した。

 

つづく・・・