いや、当然、空耳だと思うんですよ。

でも聞こえてくるんです。Master先生の声が。

それがなぜか、ホグワーツの校長、ダンブルドアのような声なんですよ。

「 」は蛤碁石、『 』はMasterです。

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Master先生の黒番です。

「3手目をたすきに打つのは珍しいですね。しかも向かい小目」

『ああ、布石に決まりはないからの。打ちたいように打てば良いのじゃ。』

「かかりにコスミツケ。あまり見かけませんが、定石にはあるんですね」

『ふむ、ごく自然な手じゃな』

「白は上辺に開かず、右辺からです。黒のケイマが薄いという主張ですね」

『薄いじゃと? ワシには何のことだかわからんわ』

「確かに薄いとか考えてないようだ、この先生は」

『理屈はよくわからんがの。ここが良いのは分かるのじゃ』

「これは、見るからに薄い。薄すぎですよ」

『薄いだの厚いだの、いちいち人間はうるさいのう。大切なのはその結果がどうなるか、だけなのじゃよ』

「真正面からの戦いになりますね。やっぱり黒の方が弱そうに見えますよ」

『そうか? ワシには黒に良い図しか見えんがの』

「手筋っぽいですね。でも黒がバラバラになるだけのような気が」

『大切なのは結果なのじゃ。途中ではない。しかし、途中が無ければ結果もないのだ』

「なんだか、ややこしいことになりましたね」

『これが「ややこしい」なのか? ワシには全て必然にしか見えんがの』

「うわ、もう何がなんだか」

『何を言うておるか。ただ単に変化を全部読めば良いだけじゃ』

「右辺は2子抜かれて、上辺は小さく捨てようとされてますよ。これ、どうするんですか?」

『まあ、そう焦るでない。小さく捨てるじゃと? それも良かろう』

「うわ、またガッチリ取りましたね」

『うむ。これで良いのじゃ』

「あれ? ここは小ゲイマにシマルんですね。 隅に縮こまってるとか言ってませんでしたっけ?」

『5手目のシマリとこの手を比べても意味が無いわ。盤面は常に変化しておるのじゃ。部分にとらわれるのは、人間の悪いくせじゃな』

「こういうツケ、先生はよく打ちますよね。最大に地が欲しいという級位者が打ちそうな手です」

『下辺を打つならこの手じゃろう』

「あれ、下辺がまだ途中のような気が」

『途中じゃと? 碁は終局するまで常に途中じゃよ』

「厳しい割り打ちですね。さすがにこれは困ったでしょう」

『良い結果に繋がる手を選ぶだけじゃ。困ることなど何も無い』

「上辺取ってる間に左上隅取られちゃいましたよ。釣り合ってるんですかね、これ」

『ん? 何のことかの』

「あ、まだ手があるんですね。なるほど。隅生きと中央脱出の見合いですね。」

『見合い? そう言うものなのか? ワシにはよう分からんが、ここに打つと良い結果に近づくのじゃよ』

「はあ、上手いもんですね。白はC15の1子取るしか無いですね。黒は先手で白地を制限してますよ。で、先手を取って、どこですかねえ。」

「1子抜き! なぜ今? 下辺もう1手とか、左辺黒勢力の拡大とか、もっと大きいところがあるでしょう」

『1子抜くのが最善。そこに理由など不要じゃ』

「うわあ、右辺の白模様が立体的になってきましたよ」

『立体的? 碁盤は平面じゃが』

「そのまま地にさせるんですね」

『そう見えるか。ならそういうことかも知れんの。しかし、そうとも限らんぞ』

「ここで下辺というか右下。中央の押し合いが途中で2目の頭も残ってますが」

『2目の頭? なんのことか分からんが、それは碁に関係がある話なのか?』

「あ、先生お得意のカタツキを相手に打たれちゃいましたよ。ククッ」

『ほう、これは良さそうな手じゃな。面白くなってきおった』

「一つ押してからスベリ。普通ですねえ」

『そうか、これが普通なのか。面白いことを言うのう』

「へえ、そこですか。3目の頭、両方ハネられちゃいそう」

『なんと、3目にも頭があるのか? はっはっは』

「中央の黒、なんかめちゃマズイですよ、これ」

『マズイか? そうかの』

 

「中央の黒、なんかモガイてません? モガイて生きると大抵負けますよ」

『見えてる物が違うようじゃの』

「うわ、キッつ。白さん本気。苦しいでしょう、これは」

『慌てることなど何もないのじゃよ』

「あれー、なんでこうなるのかなあ。」

『全ては必然じゃよ』

「中央の黒は完全に左辺に繋がりました。しかも地が着いてるし。右辺の白模様は制限できてるし、白の薄みが残ってるし。地合いも黒リードだし。鮮やかな手品を見てるようです。」

『まだまだ、これからじゃよ。終局するまでは常に途中なのじゃ』

「こういう手が全部利きますからねえ。中央の3子取り、上辺の2子取りも残るし。黒ペースです」

『そうじゃな、ここから先はほぼ決まった手順じゃ。この白さんなら最後まで読みきっておるじゃろう』

終局図。白が投了です。

結構白地もあって、細かいかと思うのですが、プロレベルではもう無理なんでしょうね。

「先生、この碁のポイントはどこでしょうか?」

『3手目の向かい小目じゃよ。』