2月12日の投稿で、ナショナリストYouTuberの消費税に関する主張3点のうち2点を、下のように要約しました。

 

②「日本の財政を連結で見るべきである」とする、財務省の財政均衡主義を批判する主張。政府財政を単体で見ると1000兆円の借金を抱えているが、子会社である日銀などとの連結貸借対照表で見れば、その借金はほとんど消える。増税の必要はない(高橋洋一など)

 

③「デフレ時には財政均衡にとらわれず政府赤字を拡大して民間を潤すべき」とする機能的財政論。税は、政府支出の財源を確保するための手段ではなく、国民経済を望ましい姿にするための手段である(中野剛志など)

 

②に関するナショナリストYouTuberの代表として挙げた高橋洋一は元財務官僚で、小泉内閣で構造改革を主導した竹中平蔵をサポートしたのち、第1次安倍内閣で内閣審議官を務め、退官後はリフレ派の論客として第2次安倍内閣のアベノミクスを支えました。書店の平台に並ぶ著書を多数出してきた言論人です。

 

高橋は、財務省の政策の根幹を否定ないし相対化します。

 

財務省の主張は以下のようなものです。日本の財政は収入以上に支出することを続けた結果、今や国債残高は1200兆円を超えた。これはGDPの2倍を超えて世界の中で群を抜いて高い水準であり、このまま財政赤字を拡大し続ければ借金に押しつぶされ国家財政は破綻する。それを避けるためには、年度の予算のガイドラインとしてプライマリーバランス(≒税収-政府支出)を設定し、目標年度(現在のところ2025年度)までに、プライマリーバランスを黒字にする、すなわちその年の政府支出を収入以内に収めるようにしなければいけない。

 

これに対して高橋は、日本の財政状態を正確に評価するためには、連結のバランスシートで見なければならない、と述べます。すなわち、政府単体ではなく日銀なども含めた連結(連合政府)でみると、1200兆円の借金(負債の部)の一方で、資産として有価証券や不動産等を持っているというわけです。

 

「たしかに政府の債務残高1000兆円はGDPの2倍だ。

ただ一方で、政府には豊富な金融資産がある。さらに政府の「子会社」である日銀の負債と資産を合体させれば、政府の負債は相殺されてしまう。

したがって、増税の必要も歳出カットの必要もない。じつに単純な話である」

(髙橋洋一『99%の日本人がわかっていない新・国債の真実』2021年9月)

https://newscast.jp/news/3240594

 

同様に、財務事務次官矢野康治が『文藝春秋』2021年11月号に発表し、官僚トップが主張を展開したとして話題になった論文がありますが、これについて批判を展開した記事では次のように言います。

 

「矢野氏は、財政が危機であるとして、データで示しているのは「ワニの口」と称して一般会計収支の不均衡と債務残高の大きさだけだ。

すべての政府関係予算が含まれている包括的な財務諸表は小泉政権以降毎年公表されている。この財務諸表は、しっかりした会計基準でグループ決算が示されているが、それからみれば、矢野氏の財政データは、会社[でいえばそ]の一部門の収支とバランスシートの右側の負債だけしかない欠陥ものだ。

ただし、今財務省が公表している連結ベースの財務諸表には、日本銀行が含まれていない。日銀は、金融政策では政府から独立しているが、会計的には連結対象なので、財務分析では連結すべきものだ。日銀を連結したのは、資産1500兆円、負債は国債1500兆円と銀行券500兆円だ。銀行券が無利子無償還なので形式負債だが実質負債でないので、日本の財政が危機でない」

(「高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 財務次官の「財政危機」寄稿が「欠陥もの」である理由」、J-CASTニュース)

https://www.j-cast.com/2021/10/14422477.html?p=all

 

財務省は政府の連結財務諸表を発表しているものの、矢野論文はその一部のみを取り上げて財政危機をあおっているというわけです。高橋は「日本で初めて連結バランスシートを作ったのは自分である」と述べていますが、古巣の財務省からは、省の主張を真っ向から批判するため、非常に煙たがられているようです(高橋洋一チャンネル)

 

経済評論家の森永卓郎も同じ趣旨のことを、著書『ザイム真理教』のなかで、財務省の連結財務諸表をもとにわかりやすく解説しています。

 

出典:森永卓郎『ザイム真理教』58頁

 

これでみると、2020年度の政府連結財務諸表の負債の部には、987兆円の国債およびその他の合計で1661兆円が、資産の部には現預金・有価証券・不動産など合計で1121兆円が計上されています。差し引きは540兆円で、日本のGDP並みの金額となります。

 

森永によれば、GDPと同額程度の借金は、先進国ではごく普通の水準である。そしてさらにその540兆円についても、政府の通貨発行益でほとんど消えて0になる、とのことです。通貨発行益について森永は次のように説明します。

 

「日銀が国債を買って、それを満期が来るたびに借り換えて、永久に日銀が保有し続けたら、何が起きるだろうか。

永久に借り換えるのだから、元本を返済する必要はない。一方、日銀が持っている国債にも政府は利払いをしなければならないが、日銀に支払った国債の利息は、ごくわずかの日銀の経費相当分を差し引いて、国庫納付金として、ほぼ全額が政府に戻ってくる。つまり、国債を日銀に買ってもらった段階で借金は消えるのだ。もちろん、日銀が保有する国債の量を減らせば、借金が復活するのだが、基本的には日銀が保有する国債はトレンドとして増え続けるので、そのことを心配する必要はない。

 つまり、日銀が国債を買った瞬間に、その分は実質的に政府は返済義務を負わなくなるのだ。逆に言うと、日銀に国債を買ってもらった分は、政府は利益を得たのとおなじことになる。私はそれを「通貨発行益」と呼んでいるのだ」[1]

  (森永卓郎『ザイム真理教』66~67頁)

 

以上、ナショナリストYouTuberの、政府の借金は連結貸借対照表でみなければならない、という主張について書きました。次に、ナショナリストYouTuberの主張③について確認します。税は、政府支出の財源を確保するための手段ではなく、国民経済を望ましい姿にするための手段である、とする機能的財政論と呼ばれるもので、数年前から話題になっているMMT(Modern Monetary Theory)の論者が言及する立場でもあります。

 

これから、MMTの代表論者、中野剛志の著作『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(2023年)を見てみます。ちなみに、中野剛志は、高橋洋一のようにYouTubeチャンネルを持っているわけではなく、紙メディアを中心に活動しています。[2]

 

中野は、『どうする財源』の第2章で資本主義の原理について述べています。有名な経済学者シュンペーターを引いて、資本主義の最も重要な特徴は、民間銀行による決済手段(銀行手形あるいは預金)の創造(信用創造)にあるとします。そして中央銀行-政府-民間部門の関係を、「貨幣循環理論」に基づいて以下のように説明します。

 

民間銀行は企業に貸出をすることで、貨幣を創造していると考えられる(一般的な金融の考え方)。この考え方を財政にも適用して、中央銀行は政府に貸し出すことで貨幣を創造している、そして貸し出された貨幣をもとに政府が支出をすることで、民間部門に貨幣が供給され、これによって国民経済が潤う。逆に政府は税金を集めることで、民間部門から貨幣を吸い上げる。以上は下の図のように表される。

 

出典:中野剛志『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』71頁

 

この図は、財源をどこに求めるかという同書のテーマへの回答を示しています。以下の引用に見る通り、政策の実行にあたって税による財源確保をする必要はないというわけです。

 

「貨幣を創造し、それを政府に供給しているのは、中央銀行です。政府支出の財源は、中央銀行による貸出しです。税収ではありません」「政府は、貨幣を支出した後で、徴税を行なっています。したがって、政府支出の財源が税収であるはずもないのです」

(『どうする財源』75頁)

 

次に、財務省の姿勢を最もよく表現しているキーワード「財政健全化」に焦点を当てます。

 

「税とは、政府支出の財源を確保するための手段ではなく、その反対に、政府支出の財源(貨幣)を消滅させるための手段」

 

であり

 

「別の言い方をすると、財政支出を抑制し、税収を増やし、政府債務を減らすことは、「財政健全化」と言われていますが、この財政健全化によって、貨幣は破壊されていくのです」(77頁)

 

さらに、財政赤字は政策を進めるために時には必要なものであり、忌み嫌うべきものではない、と展開していきます。

 

「したがって、デフレの時に、財政赤字が拡大し、政府債務が増大するのは、何ら悪いことではありません。むしろ、良いことです」(79頁)

 

「財政赤字というと、悪いことのように言われますが、政府が債務を負って支出を増やすことは、単に、貨幣を創造し、供給しているにすぎません。「財政赤字を減らすべし」と主張するのは、「貨幣を破壊すべし」と言っているだけのことです」(79~80頁)

 

「そもそも、政府債務は絶対に減らさなければならないというものではありません。むしろ、これまで説明したように、政府債務はあって当然であるし、特に民間債務(=貨幣)が減っていくデフレの時は、政府債務(=貨幣)は増えたほうがよいのです」(83頁)

 

だからといって、中野は政府が無制限に財政支出を拡大していけばよい、と言っているわけではありません。

 

「国債の償還を、税金で賄うか、借り換えで行なうかは、……それが経済に与える影響次第で判断すればよいのです」(84頁)

 

つまり、MMTないし資金循環論において、政府は民間への貨幣供給を徴税という手段を使って増減させることで、国家の経済をコントロールしているといえます。税の役割はそこにあるのであって、政策を進めるにあたって絶対不可欠のもの(財源)ではない、と考えるのです。この考え方は、国家財政を個人や企業の会計の類推でとらえがちな我々にとって、天地がひっくり返ったような、天動説から地動説に転換するようなショッキングなものです。なぜなら、家計の赤字が続けば借金で首が回らなくなり、決算の赤字が続けばいずれ倒産するからです。一方、国家は赤字でも国債で補えば問題ない、そして円建ての国債であれば、通貨発行権のある政府が破綻することはない、というわけです。

 

以上のような議論については、国債の増発が民間資金の需給を逼迫させるという、これまでの経済学の常識(クラウディングアウト)からはみ出ていると思われます。主流派経済学からMMTに対する批判は多いです。しかしアベノミクスの理論的支柱となった浜田宏一は、次のようにその役割に一定の評価を与えています。

 

「日本の場合、根強い財政均衡主義の呪縛を解く解毒剤になるのではないでしょうか」[3]

 

さて、前回・前々回の投稿も含めて、ナショナリストYouTuberによる消費税や財政に関する主張を見てきました。下にまとめます。

 

消費税は、第一に金持ちにも庶民にも同率で課されるという逆進性があるため庶民のふところを圧迫して消費を抑制し、第二に付加価値税であるため経営者に人件費を抑制させる、という2つの点で日本の弱体化を促進している。

 

財務省の、財政健全化・プライマリーバランス黒字化という目標は、連結バランスシートで評価するとあまり必然性・説得力がない。

 

財政健全化・プライマリーバランス黒字化は、機能的財政論から見ると絶対視すべきものではない。デフレ下では財政拡大こそすべきで、財政赤字を恐れてはいけない。


[1] 森永は、日本の敗戦直後の悪性インフレについて、戦時中の借金は現在価値で5000兆円程度とみなされるが、現在の日本の借金は500兆円程度だから、まだまだいけそうだと見当がつく、と述べている。

[2] 中野の議論をWebで読めるものとして、「中野剛志さんに「MMTっておかしくないですか?」と聞いてみた」(『ダイヤモンドオンライン』全13回、第1回は2020年3月31日、https://diamond.jp/articles/-/230685?page=4)がある。

 

[3] 「浜田宏一氏が語る「MMTは均衡財政への呪縛を解く解毒剤」」(『ダイヤモンドオンライン』2019年7月16日、https://diamond.jp/articles/-/208526?page=2