2月4日の投稿で、グローバリズムと闘うナショナリストYouTuberをテーマとしましたが、彼ら彼女らの主張の一つに、消費税への反対があります。日本人が20年以上にわたってデフレないし低成長経済から抜けられずに貧困化が進んでいる状況を救うためには、消費税増税などはもってのほかだ、というのです。むしろ減税ないし廃止して、可処分所得を増やさなければいけない、と主張する人もいます。

 

消費税が今話題になっている原点は、岸田文雄首相が、2022年11月28日、防衛費を2027年度にGDP比2%に増額する方針を打ち出したことにあると思います。私はこのニュースを聞いた瞬間、「そんなお金がどこにあるんだ」という疑問が口をついて出ました。なぜなら、日本政府は1000兆円を超える借金を抱えていて先進国の中でもずば抜けた借金大国だ、という知識がすりこまれていたからです。そこから疑問は、なぜ今そんな話が出てきたのか、そして増額される6兆円をどのように手当てするつもりなのか、と広がっていきました。

 

年が明けて2023年1月、今度は「異次元の少子化」対策を岸田首相が打ち出します。予算規模としては年間3.5兆円規模が想定されました。

 

こうして予算拡大傾向が明確になるなか、消費税が一気に話題になったのは2023年9月19日、経団連会長の十倉雅和が、消費税増税から逃げてはいけない、と述べたことです。

 

「若い世代が将来不安なく、安心して子供を持つには全世代型の社会保障改革しかない。それには、消費税などの増税から逃げてはいけない」[1]

 

当時、予算拡大の財源としては次の選択肢が上がっていました[2]

(1)法人税増税で賄う

(2)社会保険料を値上げして賄う

(3)消費税増税で賄う

 

経団連としては、会員企業の腹が痛まない選択肢を推奨したということです。

 

さらに同じ2023年10月1日からインボイス制度が始まりました。年間売上高1000万円以下の事業者にとっては実質増税となるうえ事務処理も手間がかかる、という怨嗟の声が世にあふれました。

 

このように消費税増税に対する反発が強まるなか、2023年11月に自民党のパーティー券裏金化疑惑が明るみに出ます。そこから翌年1月にかけて国会議員に対する捜査が連日マスメディアやネットで報じられて劇場化、自民党に対する国民の批判が噴出して、ただでさえ低かった岸田政権と自民党の支持率はさらに落ちていきました。本格的に増税を打ち出す状況ではなくなって現在に至っています。

 

以上のような経緯で消費税増税は当面の政治日程からは消えたのですが、今後、防衛費や少子化対策費等で支出が拡大していく以上、いずれ議論が復活する可能性は極めて大きいでしょう。これに対して、消費税増税ないし消費税そのものに反対する主張はどのようなものでしょうか。以下の3点をご紹介したいと思います。

 

①「消費税は日本弱体化装置である」とするマクロ経済へのマイナスの影響を指摘する主張。2010年代の急激な増税は社会保障費の増加と相まって実質可処分所得の低下をもたらし、低成長の原因となっている。加えて消費税は経営者に人件費抑制を促す機能をもっている。減税ないし廃止が望ましい(森永卓郎[3]、西田昌司[4]、原口一博[5]など)

 

②「日本の財政を連結で見るべきである」とする、財務省の財政均衡主義を批判する主張。政府財政を単体で見ると1000兆円の借金を抱えているが、子会社である日銀などとの連結貸借対照表で見れば、その借金はほとんど消える。増税の必要はない(高橋洋一など)[6]

 

③「デフレ時には財政均衡にとらわれず政府赤字を拡大して民間を潤すべき」とする機能的財政論。税は、政府支出の財源を確保するための手段ではなく、国民経済を望ましい姿にするための手段である(中野剛志[7]など)

 

私を含む多くの人は、日本社会の少子高齢化が進む中、税金や社会保険料が次第に上がっていくのはやむをえないのかな、と思っているように見えます。今の枠組みのままでの増税を容認し、反対意見を持つことを半ばあきらめているようです。一方で、周りには物価高苦しんで何とか節約してゆとりを少しでも持とうとする人ばかりです。

 

しかし、消費税を問題視する発信は、もっとよい選択肢があるのかもしれない、という希望を抱かせてくれます。次の投稿で、YouTuber、発信者たちの中身に少し立ち入ってみます。

 


[1] 「報酬1億円の消費増税派」財界トップに庶民の苦しさはわからない。経団連に解散命令を!【泉房穂の「ケンカは勝つ!」第20回】(週刊FLASH 2023年11月7日号、Yahoo!ニュースより)

[2] 鈴木貴博「経団連はなぜ消費税を上げたがるのか?「日本国民を不幸にする」増税案を打ち出したワケ」(DIAMOND online、2023年9月22日)

 

[3] 森永卓郎「見過ごされがちな“とてつもない不平等”…消費税を社会保障財源にしてはいけない“納得の理由”」(文春オンライン、2023年2月10日)。YouTubeでは「経済レジリエンスPart2:「ザイム真理教」と「日本航空123便墜落事故」の不都合な真実 解説:森永卓郎」(藤井聡チャンネル『表現者クライテリオン』)2023年12月14日。がんで入院中の森永氏が病床からシンポジウムにオンライン出演し、財政の問題をわかりやすく、赤裸々なエピソードを交えて語っている。

[4] YouTube「西田昌司チャンネル」

[5] (602) 第23回日本の未来を創る勉強会 「消費税の本質を知る」講師 安藤裕先生 - YouTube

[6] 高橋洋一「元財務官僚「消費税引き上げは本当は必要ない」」(PRESIDENT Online 2019年9月18日)。YouTubeでは「高橋洋一チャンネル」

[7] 中野剛志『どうする財源』2023年。YouTube動画としては「「積極財政とイノベーション」講師:経済評論家 中野 剛志氏 室伏政策研究室代表/政策アドバイザー 室伏 謙一氏 責任ある積極財政を推進する議員連盟 第21回勉強会」(2023年4月12日)