神宮外苑再開発計画は、大量の樹木伐採計画が明らかになったため、多様な人々の反対にあっています。例えば、カップ ロッシェルが始めた署名運動「神宮外苑1000本の樹木を切らないで~再開発計画は見直しを!」への賛同は、11月4日段階で22万筆を超えました。

 

このブログでは、外苑再開発に反対する理由として、第1に創建の趣旨に反すること、第2に樹木伐採や景観など環境破壊をすること、を述べてきましたが、外苑再開発計画にはもう一つ、第3の問題点があります。開発に伴う巨大な利権の存在を指摘する報告やこれを批判する意見が、この20年ほど繰り返しメディアやWebで提起されているのです。それは、私の理解では次のような諸点を骨子としています。

 

①都市開発による利益獲得をめざす民間企業が、1990年代から執拗に都市計画上の規制緩和を求め、外苑再開発もその中で構想された。

②東京都庁の都市計画部門も、早くから積極的に規制緩和の要請に応じる手立てを講じてきた。

③都市計画上の規制は歴史的に定着していたものだが、これをはずすために、国民的スポーツイベント(ラグビーワールドカップと東京オリンピック)を利用した。

④明治神宮は、高さ制限が大幅に緩和されたことで得られた容積率を、自らは使用せずに開発事業者に売却(他のビルに移転)し、その金で神宮球場建て替えなどの設備更新を行うことをもくろんだ。

⑤以上を、政治家・都庁幹部・開発事業者・明治神宮が結託して進めた。

 

以下では、①について知られている事実を私なりにまとめました。 

 

話はバブル崩壊にまでさかのぼります。1990年を頂点に全国商業地の地価が急速に下がり始め、底を打つ2005年度には6分の1程度まで落ち込みます[1]。この過程で土地を所有する会社や個人は膨大な含み損を抱えました。また多くのゼネコン(総合建設業)が、1997~2005年の間に経営危機に陥り、倒産しました。

 

この苦境を救ったのが、土地規制の緩和でした。容積率の制限を大幅に緩めること等により再開発を可能にし、この問題を解決しようとしたのです。その動きは1997年頃に始まり[2]、2002年3月、小泉純一郎内閣のもとで土地再生特別措置法が成立してから、大々的に進行していくことになります。私たちの実感としても、2000年前後を境に、東京などでの「〇〇ヒルズ」といった大規模ビルや、超高層マンションが建ち始めたことを思い起こす方も多いのではないでしょうか。

 

以上が、明治神宮外苑をめぐる再開発プランの背景です。そんな中で動き始めた計画をある週刊誌がキャッチし、当時の誌面で次の2つの事実を報道しています。[3]

 

第1の事実の概要は、〈2003年11月、JEM・PFI共同機構などが「東京都防災まちづくり計画事業提案書」を作成し、神宮外苑を防災拠点とするために高級賃貸マンションの建設などを提案した〉というものです。

 

なかなか理解しにくい内容で、特にJEM・PFIという団体がよくわかりません。その記事によると、大手ゼネコンなどが幹事会社を務めており、代表理事の米田(まいた)勝安は明治神宮にほど近い場所にある平田神社の6代目当主にして、森喜朗元首相と親交があり、「都内再開発には必ず名前の上がる〝キーパーソン〟」とされています。神社の敷地内にマンションなどを建てて経営面の助けにしているのはしばしば耳にすることですが、同じような構図を描いていたのでしょうか。

 

第2の事実の概要は、〈2004年6月に電通社員が、「GAIEN PROJECT『21世紀の杜』企画提案書」をまとめ、ゼネコン等をまわっていた〉というものです。

 

提案書では、神宮外苑再開発をSPC・PFIという新手法(民間主導の再開発会社設立)を使って進め、外苑創建100周年に合わせて、2026年にオリンピック誘致、神宮球場・国立競技場・秩父宮ラグビー場の建て替えやドーム化をすることをうたっています。興味深いのは、オリンピック招致を石原慎太郎都知事が表明する前に、電通の提案書が載せていることです。

 

記事では、この提案書の作成依頼者は明治神宮であろうと推測しています。その理由を、2004年7月に明治神宮が神社本庁(全国の神社を包括する宗教団体)から脱退した事実とからめて、「境内地の処分は役員会議決の上、神社本庁統理の承認が必要だった。つまり、外苑再開発は神社本庁に包括されたままでは難しかった」からだ、と述べています。

 

2007年に外苑再開発について取材を受けた米田勝安は、外苑地区にかけられた土地規制のために中止した、と述べています。この時点では外苑再開発の動きはいったん止まったのかもしれません。しかし、ラグビーワールドカップ、東京オリンピックが本決まりになると、一気に事態が動き出します。

 

別投稿で参考資料として関連の年表とその出典を掲載します。

 


[1] 地価調査 (2023年) 全国 用途別推移集計 (m47.jp)

[2] 1997年2月10日、橋本龍太郎内閣は「新総合土地政策推進要綱」を決定し、土地の有効利用を重点とする政策に転じた(五十嵐敬喜・小川明雄『「都市再生」を問う』2003年、20頁)。

[3] 『週刊金曜日』2005年3月18日号、2007年3月16日号。