佐藤さんが溺死であれば、八木さんが佐藤さんを殺害したとする死刑判決は、根底から覆ります。
今回は、佐藤さんが溺死であると断言する理由をご説明いたします。
なお、弁護団は、一審以来佐藤さんは溺死であると主張していました。以下に述べる理由は、今回の再審請求における「新証拠」に基づく理由です。その他の溺死の理由についても追々ご紹介したいと思います。


まず、前提として、水死体は、大きく二つに分けられます。死後投棄か、溺死体です。裁判所は、八木さんらがトリカブト入りのアンパンを食べさせて佐藤さんを殺害した後、死体を車で運んで利根川に投棄したと認定しています(死後投棄)。

裁判所の認定に対し、弁護団は、再審において、日本を代表する法医学者の鑑定書を「新証拠」として提出しました。鑑定書には、佐藤氏が「溺水であったことは明らかである」と明確に記載されています。


溺死体である場合、生きた状態で河川に入り、河川水を飲み込んで死に至ります。他方で、死後投棄の場合には、死んだ状態で河川に入れられますから、河川水を「飲み込む」ことがありません。

死体であっても水が口や鼻から進入して、肺まで到達するのではないかと思うかもしれませんが、人体には喉に弁があります。人体は、この弁が作用して、肺には水が入らないようになっているのです。実際、皆さんも、肺にまで水が入る経験をされた方はほとんどいらっしゃらないでしょう。気管に水が数滴入るだけでも、むせ返るのが人体なのです。
また、死体といえども体内から圧力がかかります。体内に水が進入する為には、体内からの圧力を覆すほどの圧力が必要です。深い海底に沈められた死体などには、水圧の関係から肺に大量の水が入ることもありますが、河川程度の水深では、ほとんど影響しないとされています。

以上の様に、死後投棄である場合、死体の肺から大量の水が検出されることはありえません。逆に言えば、死体の肺から大量の河川水が出てきた場合には、当該死体は死後投棄ではない=溺死体であると考えられるのです。


では、佐藤さんの肺からは、大量の河川水が出てきたのでしょうか。残念ながら、平成7年6月15日に、佐藤さんの死体を解剖した解剖医は、佐藤さんの肺に含まれる河川水の量を調べていませんでした(なお、当該法医学者は、解剖初見として溺死について、肯定も否定も出来ないと結論付けています)。


それでは、佐藤さんの肺に、どれほどの河川水が含まれていたかはわからないのでしょうか。
今回、弁護団は、佐藤さんの死体の肺に含まれていたであろう河川水の量を計測することに成功しました。
手がかりは、小さな小さな「プランクトン」にあったのです。

プランクトンを手がかりに、どのように佐藤さんの肺の水量を計測できたのか。
次回は、その過程をご紹介いたします。