目玉焼き/オムレツ/卵ごはん/出し巻き玉子… 和洋中の垣根を越え 日本人の食卓には欠かせない“たまご” 一般家庭の冷蔵庫にも必ず常備され 好きな人は数多でも嫌いな人はそう見当たらない馴染みの食材ですが この“たまご”について意外に知られていない事が多いのも現実です
黄身の色は餌によって変わる
卵の色と言えば普通に思い浮かべるのが“白い白身に黄色い黄身”ですが “黄身が白い卵”も存在します 卵黄の色は鶏が摂取する餌に左右され 例えばトウモロコシを与えれば色は黄色くなりますが コメを食べると当然色が白くなります
黄身が白い卵“ホワイトたまご”はよく見るとほんのり黄色っぽくあるものの 一般的な卵と並べると白さが際立ちます(写真左) 色だけでなく成分も違います 餌がコメ中心に育てられた鶏の“ホワイトたまご”は脂質が100㌘当たり8.1㌘とトウモロコシを与えられた卵より2㌘ほど少なく その分カロリーも低目 脂質が少ない事もあり通常よりやや軽めの味です
ホワイトたまごを使うとオムレツは白くなり ケーキも白く仕上がります(写真右) ゆで卵にすると卵白と卵黄の区別がつきません この卵は元々「国産米消費増に貢献したい」との思いから始められたものの 実際販売は苦戦しています 「味が薄いのでは?」と見た目で思われ敬遠される事からも 黄身の色が濃いほど美味しいという印象が最大の障壁になっています
黄身の色と味は無関係 濃い黄色はエサに由来
黄身色の濃度と味は関連性が全くありません 黄身の“黄色”はトウモロコシに含まれるカロテノイド色素由来のものです また多くの養鶏場は色を濃くするためにパプリカやマリーゴールドなどをエサに加えています コメ中心に育てた場合でも色素を加えれば黄身は黄色くなります 極端な話“黄身の色”は人為的に何色でも調整出来ます 勿論食品添加物などの規制があるため実際に販売できる色は限られています
因みに欧米はトウモロコシよりも麦などを多く食べさせるため 日本ほど黄色が濃くないそうです 日本の様な橙系黄色ではなく檸檬の様な黄白色です また餌の事情に加え消費者があまり濃い色を好まない側面もある様です アジア地域でもインドなどは黄身が白っぽい卵が普及しているそうで “黄色信仰”は日本独自のものと言えそうです
左)たまご作成カラーチャート 各色に番号で黄身の色を確認できます 商品名“YORK”は黄身を意味する英語
右)卵検査機器“エッグマルチテスター” 黄身の色や卵白の高さなどを計測します
一方 殻の色は大きく分けて赤玉と白玉がありますが 印象では赤玉の方が高級に思われる方が多い様です 実際赤玉の方が値段も幾分高目ですが やはり赤玉の方が美味しいのでしょうか?
殻の色は鶏の種類によって違います 極僅かの例外もありますが一般的には“赤い羽の鶏は赤玉 白い羽の鶏は白玉”を産みます 赤玉と白玉を比べても味や栄養価の違いは殆どありません 同じ餌で育てれば成分はほぼ同じです
赤玉が白玉より値段が高い理由ですが 赤玉を産む鶏は地鶏の印象が強く 消費者に好まれる傾向があります 卵の業界では赤玉を産む鶏に良い餌を与えて高値で売る事が多かったので 赤玉=高級とのイメージが定着したのかもしれません
もう一つ 赤玉を産む鶏は白玉を産む鶏に比べ体格が大きく 餌を白鶏より沢山餌を食べます これも赤玉の価格が高い事に繋がり 結果高級イメージを増幅させています
ちなみに生後150日を越えた鶏が1日に摂る餌の量は 平均110㌘程度だそうです 毎日/55㌘の卵を産むと考えた場合 1個の卵に対し2倍近くの餌が必要という計算になります
採卵鶏の先祖 殆どが外国産
農水省資料では 卵の自給率(重量ベース)は2011年で95% 「国内で生まれた鶏が産んだ卵」を視た数値ですが 餌まで考慮すると自給率は一気に11%まで下がります 更に親鶏やその親鶏にまで遡ると 殆どの鶏が外国産だそうです 卵を産む鶏(採卵鶏)の親鶏を種鶏(しゅけい)と呼称し 種鶏の親が原種鶏 その親は原々種鶏と呼称します
鶏の改良を行っている独立行政法人/家畜改良センター岡崎牧場(愛知県岡崎市)によれば 種鶏/原種鶏は大半が雛の状態で輸入され その後国内の農場で育てられ卵をかえし 採卵鶏の雛として養鶏場に出荷されます “原々種”の段階から国内で開発された純国産鶏はおよそ5%だそうです
農水省動物検疫所まとめ“初生ひな輸入状況”では 2012年の卵用鶏輸入量は約26万7千羽 原種鶏と種鶏が殆どで 輸入先はカナダ/米国/フランス/ドイツの4ヶ国で占められています 日本国内で日々卵を産む約1億4千万羽の採卵鶏は その殆どが海外で生まれた鶏の子孫という事になります
鶏の育種会社 世界では2大グループの寡占状態に
しかしなぜ輸入依存度がここまで高いのか? 海外の鶏は採卵率が高く そこに国産鶏が太刀打ちできなかった背景があります 雛の輸入が解禁される1960年代までは日本でも鶏の育種会社が数多く存在していました しかし解禁後 同じ餌量で沢山卵を産む外国産鶏が日本市場を席巻 瞬く間に外国産鶏が主流になってしまいます
現在も日本国内でも鶏の育種を行っています しかし育種には多大なコストと時間が掛かるのに対し 歴史の長い欧米育種会社は 改良の基礎となる鶏を豊富に持っており その差はなかなか埋まらない現状です
なら輸入した原種鶏や種鶏を国内で増やせないのか? 原種鶏や種鶏からでは 良質な卵を産み続ける性質が何代にも亘って引き継がれないそうです 均一な卵を生産するには種基となる鶏が必要ですが そこは欧米企業はさすが門外不出 結局原種鶏や種鶏を毎年買い続けるしか方法がないのだそうです
こうした状況に危機感を抱き 種の基となる鶏から開発し“純国産鶏”として提供している孵卵場もあります 数少ない純国産鶏の開発に長年携わってきた後藤孵卵場(岐阜市)現在殻がピンク色の卵を産む“さくら”と赤玉を産む“もみじ”を展開中 ただ規模では外国産に到底叶わず シェアは数%に留まっています
鶏育種の世界では資金力が開発力に直結するゆえグローバル競争が激しい現状です 現在はドイツ系/EWグループとオランダに本部を置くヘンドリックス・ジェネティックス社の2大グループによる寡占状態が続いています 両社とも数多くの子会社を傘下に抱え 其々の農場から雛を日本向けに出荷しています
産卵は午前中に集中 数日産んで1日休むサイクル
ところで1羽の鶏はどのくらいの頻度で卵を産むのでしょうか? 概ね25~27時間に1個と言われています 産む時間も大体決まっており陽が昇ってから2~6時間後だとか この周期だと季節によって時間が早かったり遅かったり ばらつきがありそうですが 実際そんな事はなく明るくなってから8~10時間を超えると一旦卵を産まなくなり 次の日にまた朝早くから産み始めるそうです
卵のサイズは産み始めてからの日数と大きく関係します 鶏が卵を産み始めるのは産まれてから約4カ月後 一般的に体の小さい若鶏は小さな卵を産み 日数がたって体重が増えてくると大きな卵を産む様になります 自然な状態では5年ほど産卵するといわれていますが “流通商品”として販売するのは1年半程度 その後は食肉用などになります
四季の中でも特に夏場は鶏にとって厳しい季節です 鶏は暑さに弱く“汗腺”がないので呼吸か水分補給でしか体を冷やせません 呼吸回数が増えるとその分 血中の二酸化炭素濃度が上昇し炭酸カルシウムの形成が遅れます 夏場に卵の殻が薄くなりがちなのにはこんな理由があるからです
日本人は世界でも有数の“卵好き”で 1人当たりの年間消費量は324個(2010年/国際鶏卵委員会データを基に鶏鳴新聞社が集計)と日本はメキシコに次いで世界2位 中国がこれに続きます 多くの日本人が毎日ほぼ1個の卵を食べている計算になります
イスラエル/デンマーク/ウクライナも卵大国として有名です 嘗てはイスラエルが世界一の卵消費国だった事もあるとか 現在はデータを公表していないため 日本より多いかどうかはわかりません イスラエルを代表的する卵料理は“シャクシュカ(シャクシューカ)”という スパイシーなトマトソースに卵を割り入れて煮込んだ料理です 中近東域ではよく食べられる料理で 国によって食べ方は若干違う様ですが卵を多く摂取する要因なのは間違いありません
日本人が卵を食べるようになったのは江戸時代後期から 食生活の欧米化が進み冷蔵庫が普及し始めた高度成長期以降爆発的に消費が伸びました 全ての食に合う卵は日本人と相性が良かったみたいです しかし前述した通り餌も親鶏も殆どが輸入頼みの現状です 海外事情に振り回されるリスクを常に孕んでいる事を認識しなければいけません